沖縄のカンキツ類シークヮーサーについて、「ノビレチン」というフラボノイドの効能を中心に解説します。認知症予防や美白効果の他、最近では夜間頻尿の改善に効果があるとされ、健康で長生きしたいと願う人に最適な効能があります。この効能のメカニズムや、効果的な摂取方法について解説します。
シークヮーサーは、主に沖縄本島北部地域で栽培されている、カンキツ属後生カンキツ亜属ミカン区コミカン亜区に属するフルーツです。
フラボノイドの一種である「ノビレチン」という成分が含まれ、抗認知症作用や頻尿の改善効果があるなどとして、産学官連携での研究が進められています。ノビレチンは他のカンキツ類にも含まれますが、シークヮーサーは飛びぬけて含有量が高く、注目されています。[※1]
またシークヮーサーはビタミンC、クエン酸、ビタミンB1、各種ミネラルを含み、栄養価が豊富であることも特徴です。
シークヮーサーの「シー」は酸を意味し、「クヮーサー」は食べさせることを意味します。外見は温州みかんに似ており、果実飲料やゼリー、魚の酸味付け、生食などで古くから親しまれてきました。
シークヮーサーには多くの健康効果がありますが、主な効果・効能としては以下が挙げられます。
■抗認知症作用
東北大学の研究では、ノビレチンには記憶障害の改善作用が認められ、アルツハイマー病の根本治療薬となる可能性があると発表されています。[※2]
■美白効果
ノビレチンは皮膚の中のメラニン生成を抑制する作用が報告されています。また、抗酸化作用のあるビタミンCも豊富なため、美白やアンチエイジング効果が期待できます。[※3]
■発がん防止作用
ノビレチンなどのカンキツ系のフルーツに含まれるフラボノイドには、がん細胞の増殖を抑制し、減少させる作用が確認されています。[※1]
■炎症抑制作用
ノビレチンは炎症を抑える効果があり、これにより関節リウマチや変形性関節症を予防、ないし改善する効果があることが報告されています。[※4]
■脂質代謝改善作用
ノビレチンや、同じくシークヮーサーに含まれている有機化合物のシネフリンは、脂肪の燃焼を促し、脂質の代謝を改善する働きをします。
■血糖値の上昇抑制
ノビレチンは血液内の血糖値の上昇を抑える働きをするため、糖尿病の予防効果が期待できます。
■頻尿の改善
琉球大学の研究により、ノビレチンは頻尿や尿漏れなどの排尿障害の症状を改善することが明らかになりました。
シークヮーサーのノビレチンにはさまざまな健康効果があり、そのメカニズムも多様です。代表的なメカニズムについて解説します。
■抗認知症作用
脳細胞は神経突起を伸ばすことで他の神経細胞と結合して情報伝達をしています。脳が老化すると、神経突起が伸びにくくなるため脳の機能が低下します。
ロート製薬(株)が行ったノビレチンの研究によれば、ノビレチンとDHAを組み合わせることにより、脳の神経細胞の神経突起伸長活性が起こることが報告されています。[※5]
また、東北大学の研究では、上記の作用に加え、突起伸展作用(神経細胞の成長)にかかわるERKやCREBというシグナル細胞情報伝達分子の活性化も確認しています。
これらの細胞情報伝達分子はアルツハイマーをはじめとする認知症の改善に重要なことがわかっており、認知症の予防や治療薬となる可能性が指摘されています。[※2]
■美白効果
沖縄工業高等専門学校生物資源工学科の研究によれば、シークヮーサーの種子から抽出したゲルは、高い抗酸化作用とともに、皮膚の中でメラニンの生成に関与する酵素チロシナーゼを阻害する効果をもつことが判明しています。[※3]
そのため、シークヮーサーの種子を原材料とするローションを用いることで、メラニン生産が抑制され、美白や美肌効果を期待することができます。
■発がん防止作用
ノビレチンをはじめとするフラボノイドには、がん細胞のアポドーシス(細胞が遺伝子で決められたメカニズムにより死滅する現象)を誘導する作用が確認されています。[※4]このため、発がん抑制効果があります。
シークヮーサーは主に認知症を予防したい人、夜間の頻尿が気になる人、高血圧や糖尿病などの生活習慣病を予防したい人に向いています。
また、肌を若く、美しく保ちたい人にも最適です。ジュースやサプリメントを飲用する他にも、シークヮーサーの化粧品を活用しましょう。
食品のため、特に上限摂取量は設けられていません。
東京薬科大学薬学部教授、指田豊博士は、シークヮーサーの果皮および果汁に含まれる「タンジェレチン」「ノビレチン」のがん抑止効果について調べました[※1]。
タンジェレチンとノビレチンを1mg/20μlずつマウスの耳に塗り、その後、発癌促進物質を塗布し、6時間後の癌の抑制率を検証。
その結果、タンジェレチンを塗った耳の抑制率は65%と顕著な抑制効果が発生し、ノビレチンでも75%の抑制効果が確認されました。
また20週間にわたり、マウスにおける皮膚癌の発生の抑制効果を調べたところ、発癌抑制効果が認められました。
東北大学のマウスを用いた実験では、ノビレチンを体重1kgあたり10mgないしは50mgを4か月間、1日1回投与し続けました。
すると、アルツハイマー病の脳に見られる「老人斑」を形成する物質である、Aβ(アミロイドベータ)タンパク質の沈着が50%程度に減りました。[※2]
従って、ノビレチンが「老人班」の原因となる脳内Aβの蓄積に対する予防と、治療効果があることがわかりました。
琉球大教育学部の照屋俊明准教授と沖縄リサーチセンターの共同研究では、排尿障害の男女50人にノビレチンの高純度粉末を6週間摂取してもらったところ、夜間の排尿回数が、飲用前の平均2回から、飲用後は1回に減少しました。[※6]
沖縄では古くからシークヮーサーが食べられてきましたが、経済的栽培は沖縄本島北部地域1960年代ごろから始まりました。[※7]中でも大宜味村はシークヮーサーの栽培に力を入れてきました。
シークヮーサーは当初、温州みかんに比べて糖度が低かったことから、(温州みかんの糖酸比が12程度なのに対し、シークヮーサーは4から8程度)あまり人気の高い果実ではありませんでした。
しかし、生研機構(現生研センター)が1996年から2000年にかけて行った「カンキツによるがん予防
に関する基礎的研究」において、カンキツ類に含まれる抗がん成分が発見されました。
なかでもノビレチンという成分が有効であること、また、ノビレチンはシークヮーサーに多く含まれることがわかり、シークヮーサーが大きく注目されました。
また、2001年から2005年度にかけては、沖縄の産学も研究に参加し、異分野融合研究支援事業として「カンキツの機能性成分を活用した保健機能食品の開発」が実施されました。これによりシークヮーサーの栽培や、機能性食材としての研究が進みました。
国立長寿医療研究センターの遠藤英俊センター長は、2018年2月5日オンエアのTBSラジオ「日本全国8時です」という番組において、認知症の予防に関し、以下のように語っています。
(認知症の)「予防に大事なのが「食べ物」ですが、きょう新しく覚えてほしいのが「ノビレチン」というものです。ノビレチンは、認知能力の低下を抑制するもので、主に柑橘類の食べ物に含まれます。柑橘類の中でも、ポンカンや、シークァーサーに多く含まれます。シークァーサーはこれまでも、抗酸化作用や抗糖化作用といった老化を抑える働き、さらには、抗炎症作用など、多彩な生理作用が報告されていました。それが最近さらに、認知症に対する有効性があることが、確認されました。
★柑橘類と認知症の関係
実際に研究結果も出ています。国立長寿医療研究センターが、柑橘類と認知症の関係について1万3千人以上の日本人を対象にして研究をしてきました。その結果、柑橘をほぼ毎日食べている人は認知症の発症リスクが、週2回以下の人に比べて「14%」低下しました。週に3~4回食べている人でも「8%」の低下がありました。」 [※8]
あまり知られていないことですが、シークァーサーをはじめとするカンキツ類を日頃から摂取することで、認知症予防に確かな効果があることがわかります。
ノビレチンは主に果実の皮に多く含まれています。[※8]そのため、ノビレチンを効果的に摂取するためには、シークヮーサーを皮の側を下にして絞るか、皮をすりおろして加えたジュースにして飲むと良いでしょう。
生食する場合は、残った皮を捨ててしまうのは大変もったいないので、皮を砂糖で煮詰めてマーマレードにすると良いでしょう。また、皮を煎じて飲用したり、乾燥させてミキサーなどで粉にし、料理に振りかけたりするのもよい方法です。
沖縄産のシークヮーサー加工製品、揚菓子やジャム、カステラ、餅、ゼリーなどにもタンジェレチンやノビレチンが含まれています。
シークヮーサーの産地である大宜味村のサイトによれば、餅・ゼリー・ジャムなどの食品はノビレチン含有量が多いとされています。[※1]ノビレチンの摂取を目的とする場合は、これらの食品を選ぶと良いでしょう。
最近ではシークヮーサーを使ったローションなどの化粧水も商品化されています。シークヮーサーの美肌効果を期待する人は、経口摂取するだけでなく、シークヮーサーの有効成分を配合したスキンケアコスメなどを活用してみると良いでしょう。
また、カンキツ系の香りでリラックス効果のあるアロマオイルも市販されています。
カンキツ類の香りなどが苦手な人は、カプセルタイプのサプリメントを摂取するという選択肢もあります。
ノビレチンと魚に含まれるDHAの両方をとると、認知症予防の相乗効果が期待できます。[※5]
もともと、沖縄では魚にシークヮーサーの汁をしぼってかけて食していました。スダチやポン酢の代わりに、シークヮーサーをかけて食べてみてください。
愛媛大学医学部附属病院薬剤部薬品情報室によれば、薬との併用でシークヮーサーに副作用が生じるかについては、不明(報告なし)となっています。[※9]
シークヮーサーはカンキツ類の中ではミカン区に属し、注意が必要なザボン区、ダイダイ区ではありませんが、薬物療法を行っている人は、念のためかかりつけの医師や管理栄養士に相談してから摂取してください。
また、シークヮーサーには血糖値を下げる効果がありますが、マーマレードやお菓子など、糖分を多く含む加工食品として摂取する場合は、糖分の摂りすぎに注意しましょう。