日本でスイカの果汁から発見された遊離アミノ酸の一種であるシトルリン。ウリ科の植物に多く含まれています。2007年8月に食品成分として許可され、主に健康食品に利用されていますが、欧米では医薬品成分として利用されています。強くしなやかな血管を作ることや血流を改善するため「スーパーアミノ酸」とも呼ばれます。
薬剤師 飯田 耕平
2007年 日本薬科大学医療薬学科卒業。アロマアーチスト。 東京都北区を中心に、より良い地域医療を目指して日々奔走しております。 医薬品や漢方、栄養相談は勿論のこと、メディカルアロマを通じて、皆様の疾病予防、健康増進、セルフメディケーションのお手伝いが出来たらと思っています。
シトルリンとは、哺乳類をはじめとするさまざまな動物の体内や、スイカ等のウリ科の植物に多く含まれているアミノ酸のひとつです。1930年に日本でスイカから発見され、近年は「スーパーアミノ酸」の異名を持つほど注目の成分になっています。
シトルリンはアミノ酸の中でも「遊離アミノ酸」に分類されますが、遊離アミノ酸は他のアミノ酸のようにたんぱく質を構成するのではなく、バラバラな状態で血中などに存在しています。この遊離アミノ酸にもいくつかの種類があり、それぞれに機能性があることが解明されつつあります。
そしてこの遊離アミノ酸のひとつであるシトルリンには、血管を強くしなやかにし、血流を改善する働きがあることが特に注目されているのです。他にも血流の改善による動脈硬化の予防、美肌効果、アンチエイジング、むくみや冷えの解消、疲労を回復する効果、筋力の増強効果など多くの効果が期待されています[※1]。そしてアンモニアを無毒化する経路である「尿素回路」に関与する化合物のひとつであることも解明されています。
これらの働きに注目が集まり、現在シトルリンはさまざまな健康食品成分として広く活用されているのです。
シトルリンには次のような効果・効能が報告されています。
■血流改善作用
シトルリンを摂取すると、消化吸収の過程で体内でアルギニン(アミノ酸の一種)に合成されます。このシトルリンがアルギニンに変換されるときに、一酸化窒素(NO)が作り出されます(NO産生)。一酸化窒素は体内で血管を広げ、血液の流れをスムーズにしてくれる働きがあり、体の中で血液や血管を守るために役立つ成分です。つまり、シトルリンを摂取すると一酸化窒素が作られ、その一酸化窒素によって血管が拡張されるため、血流が促進されるというメカニズムが解明されているのです。血流が良くなることで「動脈硬化の予防」や「冷え性の予防や改善」「むくみや肩こりの改善」など、さまざまな効果も期待されます。
■むくみの改善作用
ヒトの体内に余計な水分や老廃物が排出されないで蓄積されて起こる症状がいわゆるむくみの状態です。運動量や筋肉量が少ない、水分摂取量が少ない、塩分の摂りすぎなどもむくみの原因となります。むくみを解消するには、末梢の血管まで血液がスムーズに循環する必要があります。シトルリンには末梢血管でも血管を拡張し、血流を改善する報告がされています。
このシトルリンの血流改善作用が「手足のむくみ」を改善することについては、日本人女性のボランディアによるテスト試験も行われていて、シトルリンの5日間の継続摂取によってふくらはぎのむくみが予防されたことが報告されています[※2]。多くの女性が抱えるむくみの問題ですから、今後さらなる大規模な試験が待たれます。
■冷え改善作用
冷えの原因はさまざまで、運動不足やストレスの問題もありますが、いずれにせよ抹消血管の血行不良が起こっていることが考えられます。シトルリンには一酸化窒素による血管拡張作用があり、これは末端の血管でも同様に効果を示すことが解明されています。そのためシトルリンは手足を中心に末端の冷えにも良いと報告されているのです。実際、45〜65歳の健康な男女36名のボランティアをシトルリン摂取群と偽薬群に分け、1日800mgのシトルリンを3週間継続摂取させた試験では、シトルリン摂取群のほうは有意に冷えが改善されたことが報告されています[※3]。
■肌の保湿による美肌作用
シトルリンは肌の天然保湿因子(NMF)を構成するアミノ酸のひとつでもあります。天然保湿因子とは、角質層や角質細胞の中に存在し、肌の保湿とバリア機能を担っている成分です。シトルリン以外にもNMFは存在していますが、遊離アミノ酸としてはシトルリンが一番多く存在しています。シトルリンの持つ血管拡張作用も肌のターンオーバー(生まれ変わり)を維持するのに欠かせない作用です。つまりシトルリンは肌の構成成分としても、作用としても美肌に欠かせない成分なのです。
■疲労回復作用
疲労の原因物質のひとつにアンモニアがあります。アンモニアは体内でエネルギーが作られる際に産生される物質で、蓄積すると疲労や体臭の原因になります。このアンモニアを無毒化し尿素に変換する代謝回路を「オルニチン回路」または「尿素サイクル」と呼びますが、このサイクルにおいてシトルリンは重要な役割を果たしていることが解明されています。肝臓内でアンモニアがスムーズに尿素に変えられて体外に排出されれば疲労回復に役立ちますが、シトルリンはそれを助ける成分であり、疲労回復にも効果的だと考えられているのです。
■脳の血流を改善する作用
疲労が蓄積した状態になるほど、脳の血流が悪くなり集中力ややる気が低下することがわかっています。シトルリンには血流を促進させる作用があることがわかっていますが、これにより脳の血流もアップさせることができるのではないかと期待されています。
45〜64歳の男女をシトルリン摂取群と偽薬群にわけ、シトルリン(または偽薬)を3週間摂取してもらう試験をした後、集中力に関するアンケートが行われています。それによればシトルリン摂取群は「気が散ることが減った」「間違いが減った」といった体感を報告しています[※4]。ただしまだ小規模な試験結果であるため、さらなる研究報告が待たれます。
■アスリートへの効果
シトルリンはアスリートには馴染みのある成分のひとつです。運動前にシトルリンを摂取することで運動時に血流が促進され、パフォーマンスがアップすることが知られているからです。また運動前に摂取しておくことで、運動後の速やかな疲労回復にも役立ちます。さらにシトルリンは筋肉増強に働きかける成長ホルモンの分泌を促進する作用があることがわかっています。これはシトルリンそのものの作用というわけではなく体内でアルギニンに変換するときに産生される一酸化窒素の持つ働きです。一酸化窒素が成長ホルモンの分泌を促すことで、筋肉や骨が強くなります。ただしシトルリンもしくはアルギニンだけ摂取すれば良いということはありません。その他のアミノ酸やビタミン、睡眠と運動も必要不可欠です。またシトルリンを摂取すれば運動能力が向上するということでもありませんのでそこは誤解のないようにしましょう。シトルリンは体内に吸収されると、アルギニンに合成され、そのプロセスで一酸化窒素(NO)が産生されます。この一酸化窒素には血管拡張作用があり、血流を促進させる働きがあるため、ここからさまざまな効果効能や生理作用が起こるのです。ちなみに「体内では、自ら一酸化窒素を生み出し健康を守っている」という研究と発見は、アメリカ人のルイス・J・イグナロ博士によるもので、この研究成果は1998年のノーベル医学・生理学賞を受賞しています。
シトルリンを摂取すると体内の一酸化窒素が増える=血流が改善することによって、むくみや冷えが改善される、新陳代謝が促進される、筋力や精力が向上する、疲労回復がスムーズになる、記憶力や集中力がアップする、といった多彩な効果が得られるのです。
一酸化窒素(NO)は体内で合成され、血管を拡張し血流を促進することで、血管や循環系の疾病を予防する役割を果たしていますが、加齢とともに体内での生産量や血中濃度が低下することもわかっています。
そのため、加齢とともに疲労感が取れにくくなった、慢性的な冷えや肩こりで悩んでいる、集中力ややる気が低下している、といった中高年以降の世代に特におすすめの成分がシトルリンなのです。
またアスリートの方や運動習慣のある方は運動の前にシトルリンを摂取することで、パフォーマンスの向上と疲労回復に役立ちます。
「冷え」や「むくみ」は多くの女性が抱える問題ですが、合わせて美肌成分でもあるシトルリンですから、肌の状態が気になってきた女性にもおすすめです。
シトルリンの摂取目安量は定められていませんが、冷えの解消などを体感するには1日に800mgの摂取が適量とされています。健常男性8名を対象とした試験によれば、シトルリンを2g、5g、10g、15gを単回摂取した場合も安全であったことが報告されています。しかしサプリメントなどの場合は商品に記載された摂取目安量を厳守しましょう[※5]。
シトルリン研究を精力的に行っている共和発酵バイオ株式会社のボランディア試験によって以下の報告がなされています[※6]。
軽い冷えと疲労を感じている45歳から65歳までの男女36名を18名ずつ2群に分類し、シトルリン(1日800mg)またはプラセボ(偽薬)を1日1回夕食から就寝前に3週間継続摂取をしてもらったところ、シトルリン摂取群はプラセボ群に比べ「体の冷えの改善」「手足のむくみの改善」「顔色の改善」があったことを有意に報告した。
また同社によって、シトルリン(800mg)摂取後、30分、60分、90分後にサーモグラフィーによって体表面温度を測定したところ、シトルリン摂取の場合、30分後から体表面温度が有意に上昇していること、特に首から肩に最も顕著な作用が現れていることも報告している。
さらにシトルリンの面白い点として、同じくNOを産生する成分であるアルギニンを直接摂取するよりもシトルリンを摂取した方がNOの産生には有効であるという報告もされている。ただし試験は動物試験によるものであるためさらなるヒト試験や研究が待たれます。
ヒトの体の中には「血管を広げて、血流を促進したり血圧を下げる働き」が本来的に備わっていることはわかっていましたが、それがどういったメカニズムで行なわれているか、そしてその正体がガスであることを突き止めたのが、アメリカ人のルイス・J・イグナロ博士らの研究によるものです。そしてイグナロ博士らの研究により、体内で一酸化窒素(NO)が産生されるにはアルギニンとシトルリンが重要であることも解明されました。
その一方でシトルリンは1930年にスイカの果汁から日本で発見されています。そもそもスイカの原種はカラハリ砂漠に自生していて、「砂漠の水がめ」とも呼ばれるほど、水を蓄える能力と生命力が強い植物として重宝されているそうです。野生のスイカが過酷な乾燥や強い紫外線による光ストレスの中でも旺盛に生き抜けるのは、スイカの中に大量に含まれるシトルリンのおかげだとされています[※7]。
これらの幾つかの研究によって、シトルリンはフランスを中心に医薬品として使用されるまでになり、日本ではその安全性の高さも認められ、2007年に食品成分として使用が認められたのです。
一酸化窒素(NO)の血管作用研究において、ノーベル医学・生理学賞を受賞したイグナロ博士によると、
「体内でアルギニンやシトルリンから産生されるNOは、酵素の働きによって産生されるので作られすぎることはありません(中略)。と解説しています。
アルギニンやシトルリンからはある一定量までしかNOを産生できない仕組みになっているので、増えすぎる心配は基本的にはなく、
むしろ問題なのは、現在NOの産生が足りない人が多いということです」
(国際NO学会理事長 ルイス・J・イグナロ博士 「NOがもたらす健康」から引用)[※8]
血管の健康や血流の維持に重要な一酸化窒素は体内で合成されるものだから、わざわざ食品やサプリメントで摂取する必要はない、多く摂取して過剰に一酸化窒素が作られるのではないか?という心配がある人もいるかもしれませんが、体内での合成量は加齢で減少し、シトルリンから一酸化窒素が作られる量は上限があるので、一酸化窒素の過剰産生についても基本的に心配ないということです。
また現在のところ一酸化窒素を増やす医薬品もないため、
「血管の内皮機構を高め一酸化窒素レベルを正常にするようなものを積極的に摂るのが効果的」と所沢ハートセンターの院長であり心血管治療医の桜田真己先生も話します(心臓血管名医に聞く| 特別インタビュー 桜田真己さんに聞く から引用)[※9]。
シトルリンの含まれる代表的な食べ物といえば、シトルリンの名の由来となっているスイカが有名です。特に野生のスイカには豊富に含まれます。スイカの他にもニガウリ、きゅうり、メロン、ヘチマ、冬瓜、といったウリ科の植物に多く含まれますが、牛肉にも100g中0.88mgとわずかに含まれています。またナス科の植物ですがスーパーフードとして注目されるクコにも含まれています。
一酸化窒素の産生を助ける成分はシトルリンの他にアルギニンがあり、一緒に摂取することで相乗効果が期待できます。実際スポーツ系のサプリメントではシトルリンとアルギニンの両方が含まれた商品が多数あります。また血管のアンチエイジングという観点からは、活性酸素の除去を助けるビタミン類(ビタミンCやビタミンEなど)といった抗酸化成分を一緒に摂取すると良いでしょう。
シトルリンはヒトや動植物にもともと存在している成分ですから安全性は高いと考えられています。
マウスを用いた急性毒性試験においては、2g/kg(体重)のシトルリンを4週間にわたってマウスに投与した結果、副作用や組織の異常は認められていません。
更にシトルリン3.4gを含むリンゴ酸塩6gをヒトに摂取させた試験において、副作用は認められなかったことも報告されており、シトルリンの含まれるリンゴ酸塩はヨーロッパにて30年以上も使用されてきた実績がありますが、そこでも重篤な副作用の報告は上がっていません[※10]。
ただし、血圧の問題や血管に疾患を持つ方、妊娠中や授乳中の方などはサプリメントでの摂取は注意したほうがよいとされています。特に降圧剤を使用している人は使用を控えるべきであることされています。また心臓への血流を良くする医薬品との併用も避けるべきです。血管系の持病を持っている人は摂取する前に医師に相談するようにしましょう。そして、シトルリンはウリ科の成分ですから、ウリ科の植物にアレルギーのある人も注意が必要です。あまりに大量に摂取した場合は、血管拡張作用によって頭痛が起こる場合もあるようです。