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クロムの効果とその作用

クロムは必須ミネラルの1つ。体中に存在していますが、体内に存在する量は必須ミネラルの中でも一番少ない成分です。体内で糖や脂質の代謝にかかわっているといわれています。[※1]

クロムは、私たちの身近なところで目にすることができます。それが、ステンレス。蛇口やキッチンのステンレスは、クロムの錆びにくい性質を利用して作られたものです。

このページは、クロムが人体にどのような効果・効能を及ぼし、体内でどのように作用しているのかをまとめています。

クロムとはどのような成分か

クロムは自然界や人間の体内に存在している銀白色の金属です。元素番号は24、元素記号はCrです。

クロムはほかにも呼び名があり、クロミニウムや塩化クロム・塩素クロム・ニコチン酸クロム、ピコリン酸クロム(クロミウムピコリネート)などともいわれています。[※2] サプリメントや健康食品の成分表示には、クロムではなく別の名前で書いてあることも多いようです。

クロムは必須ミネラルのうちの1つ。必須ミネラルのうち、1日に100mg以上必要なものを主要元素、それ以下が微量元素です。クロムは微量元素に分類されます。

ちなみに、主要元素はカルシウム・リン・カリウム・硫黄・塩素・ナトリウム・マグネシウムの7種類です。微量元素は鉄・クロム・亜鉛・銅・マンガン・ヨウ素・セレン・モリブデン・コバルトの9種類となっています。[※3] 

クロムは血糖値や血圧、コレステロール値を下げる効果が示唆されており、ダイエットをしたい人や糖尿病を患っている人たちから注目を集めています。

クロムの効果・効能

クロムには以下のような効果があるとされています。[※2]

■2型糖尿病の症状改善

クロムには血糖値を下げる作用があるため、2型糖尿病の症状を改善・緩和するとされています。

■動脈硬化予防

クロムにはLDL(悪玉)コレステロール値を下げる効果が示唆されており、血流を改善して動脈硬化の予防が期待されています。

■ダイエット効果

血糖値やLDLコレステロール値を下げる効果があることから、脂肪を減少させるダイエット効果が期待されています。しかし、科学的なデータはまだ不十分です。

■過食性障害やうつ症状

クロム摂取により過食性障害やうつ症状が改善することがありますが、科学的なデータはまだ不十分です。逆に症状が悪化する可能性もあるとされているので、クロムの摂取は医師の判断のもと行うのが良いでしょう。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるのか

クロムは体内に約2~6mg含まれています(成人の場合)。クロムには主に3価クロムと6価クロムがあり、自然界や体内に存在しているのは3価クロムです。

自然に存在している3価クロムは限りなく無害に近い性質ですが、人工的に作られた6価クロムには毒性があります。毒性のほか、3価クロムは不溶性、6価クロムは水溶性という違いもあります。[※1] 

クロムにはインスリン活性(インスリンの感受性亢進)作用があります。といっても、クロムが直接インスリンに作用するのではなく、インスリンを活性化させる物質の材料になります。

インスリンを活性化させる物質は、3価クロムがイオン結合したクロモデュリンというオリゴペプチド。このクロモデュリンは、インスリン受容体である酵素のチロシンキナーゼを活性化させます。

チロシンキナーゼが活性化すると、インスリンがより細胞内へグルコース(糖)を運ぶようになります。クロムが十分にあることで、グルコースが代謝されやすくなるというわけです。[※1] したがってクロムは、血液中の血糖値を低下させる必須元素なのです。

また、クロモデュリンは脂肪細胞にあるホスホチロシンホスファターゼ(脱リン酸化酵素)の活性化作用も持っています。脂肪細胞の働きを活性させるのです。このことから、脂質代謝作用の活性化にも、クロムがかかわっているとされています。[※4]

チロシンキナーゼやホスホチロシンホスファターゼを活性化させるのは、クロムがイオン結合しているクロモデュリンだけです。クロムが結合していないクロモデュリンには、酵素の活性作用はありません。

ただしクロムのメカニズムは、まだくわしくわかっていない部分が多くあります。[※5]2型糖尿病の人のようにクロムの体内量が少ない人には効果があるといわれていますが、クロム量が足りている健康な人への効果はあまりないようです。 

どのような人が摂るべきか、使うべきか

体内にあるクロムの量は、年齢と共に減少していきます。しかし、バランスの良い食事をしていれば欠乏することはほとんどないため、積極的にクロムを摂取する必要はないでしょう。

2型糖尿病の人はクロムを摂ることで症状の改善が期待できますが、薬との相互作用があるため併用はしないでください。[※2] 

うつ病や統合失調症などの疾患を持っている人では、クロムサプリメントを摂取して症状が改善したという話がありますが、逆に症状が悪化する可能性もあるため、医師の判断の医師の判断をあおぎましょう。[※2] 

クロムの摂取目安量・上限摂取量

クロムの1日の摂取量目安は以下のようになっています。この値は安全性や効果を示すものではなく、これまでの臨床試験などの結果から導き出された目安です。[※2] 

男性
14~50歳 1日あたり35μg
51歳以上 1日あたり30μg
※μg=マイクログラム/1mg=1000μg
女性
19~50歳 1日あたり25μg
51歳以上 1日あたり20μg
小児
0~6か月 1日あたり 0.2μg
7~12か月 1日あたり 5.5μg
0歳~3歳 1日あたり 11μg
4歳~8歳 1日あたり 15μg
9歳~13歳 1日あたり 21μg
14歳~18歳 1日あたり 24μg

クロムのエビデンス(科学的根拠)

クロムのくわしいメカニズム解明のため、さまざまな研究が行われ、その結果が報告されています。

ルイジアナ州立大学健康科学センターのSushil K. Jainらは、2型糖尿病の患者にクロムおよびシステインを与え、グルコース(糖)代謝への影響を調べる実験を行いました。

患者を「偽薬(プラセボ)」「ピコリン酸クロム」「ジンクロシステイン酸クロム」の3つを摂取するグループに分け、試験を実施。その結果、ジンクロシステイン酸クロムを与えられたグループはインスリンの抵抗性(正常に機能しない状態)が低下しました。

このことから、ジンクロシステイン酸クロムは、2型糖尿病患者の補助療法に役立つ可能性があるとしています。[※6]

クロムがコレステロール値を下げる作用についての実験もあります。人工的に糖尿病にしたラットにピコリン酸クロムを投与したところ、コレステロール値が正常値近くまで改善。また、肝臓での糖代謝も正常になりました。こうした結果から、クロムには動脈硬化予防の効果が示唆されています。[※7]

研究のきっかけ(歴史・背景)

クロムは1797年に化学者であり薬剤師でもあったフランスのルイ=ニコラ・ヴォークランによって発見されました。

酸化の状態によって色がさまざまに変化することから、ギリシャ語で「色」を意味するchrōma(クロマ)をとってクロムと名付けられました。

クロムは空気と触れるとすぐに酸化し膜を作ります。膜ができると中の金属部分は錆びにくくなることから、金属メッキとして使われています。

中国の兵馬俑(へいばよう)にある青銅の剣や矛、弓などにもクロムメッキが施されています。ただし、このメッキ技術は文献などが残されておらず、秦の時代にどのようにして青銅にメッキを施したのかはわかっていません。これは兵馬俑の謎のひとつとされています。

体内のクロム欠乏が見つかったのは1977年のこと。静脈から栄養を摂っていた患者で発見されました。[※1]このとき、糖の代謝に異常が出ていた患者へクロムを投与したところ、症状は回復。

このような経緯から、クロムは生体において糖代謝という重要な役割に欠かせないミネラルであることがわかります。

専門家の見解(監修者のコメント)

クロムは「必須」ミネラルだとする考え方が一般的で、厚生労働省が発表している「日本食品標準成分表」にも、成人の摂取量目安は10μgと記載されています。

しかし、これまでの研究から「必須ではない」とする声が、研究者たちからあがっているようです。女子栄養大学教授の上西一弘氏は、教育情報誌『家庭』にて下記のように述べています。

「実験動物に低クロム飼料を投与しても糖代謝異常は全く観察できないことや、ヒトの糖代謝改善に必要なクロムの量は、食事からの摂取量を大きく上回っていることなどから、クロムによる糖代謝の改善は薬理作用に過ぎず、クロムは必須の栄養素ではないという説も展開されています。献立のクロム濃度を実測した国内外の報告に基づくと、日本人を含む成人のクロム摂取量は20〜80µg/日の範囲だと推定できます。一方、日本食品標準成分表2010を用いて日本人の献立からのクロム摂取量を算出すると約10µg/日という値が得られ、化学分析による摂取量推定値との間に大きな乖離が認められます」[家庭 「栄養素の通になろう テーマ9 微量ミネラルセレン,クロム,モリブデン」より引用][※8]

同様に、関西大学化学生命工学部の吉田宗弘教授も、クロムが必須栄養素であることに疑問を呈しながらも、必須ミネラルとして認められる可能性について言及しました。

「クロムが必須微量元素である可能性はまだ残っている。ただし、Vincent以上のクロム欠乏動物を作成するのは技術的に困難なので、別の方法を考える必要がある。クロモデュリンがクロムを含む機能性分子であることは事実であるから、クロモデュリンが健康維持に必須の生体成分であることを示すことができれば、クロム欠乏による健康障害を実験的に起こさなくても、クロムを必須微量元素の列に加えることができる」[日本衛生学雑誌 67号「クロムはヒトの栄養にとって必須の微量元素だろうか?」より引用][※9]

クロムはインスリンの働きを活性化させるクロモデュリンの材料となることがわかっています。必須ミネラルではないという主張もあり議論がわかれるところですが、日常生活で欠乏する可能性が低いミネラルであることは間違いなさそうです。

クロムを多く含む食べ物

クロムは、雑穀・野菜・肉・魚などいろいろな食べ物に含まれています。

■クロムを含む食品(含有量は目安)[※10] 

  • ほしひじき:240μg/kg
  • さつまいも(塊根、生):20μg/kg
  • ほうれんそう(葉、生):20μg/kg
  • 大豆(全粒 国産、乾):30μg/kg
  • 豚肉(脂身つき、生):30μg/kg
  • 若鶏肉(皮付き、生):10μg/kg
  • さんま(生):20μg/kg
  • あさり(生):40μg/kg

相乗効果を発揮する成分

クロムのようなミネラルの吸収率を上げてくれるのは、ビタミンCやナイアシンです。ビタミンCは果物や野菜などから、ナイアシンは肉類や穀物製品などから摂取できます。[※11] 

クロムはとても吸収率が悪いミネラルで食品から摂取したクロムが体内へ吸収されるのは、わずか0.4~2.5%未満なので、相乗効果が期待できる成分も一緒に摂るようようにしましょう。

クロムに副作用はあるのか

クロムの安全性や副作用について確認しておきましょう。[※2]

食品などから適切な量を摂取する分には、安全性は高いでしょう。しかし、過剰摂取で出る症状や副作用などがあります。

【過剰摂取による症状】
  • 嘔吐
  • 下痢
  • 尿細管障害
  • 【副作用】
  • 頭痛
  • 不眠
  • イライラ
  • 気分の変調
  • 【注意したい人】
    行動疾患や精神疾患がある人
    クロム摂取により症状が悪化する可能性があるため、サプリメントなどを使用する際は、かかりつけ医に相談してください。
    糖尿病の人
    血糖値を下げる薬と相互作用があり、血糖値が下がりすぎるおそれがあります。
    腎疾患や肝疾患がある人
    クロム(クロニウムピコリネート)を摂取した人が腎疾患や肝疾患を引き起こした例があるため、これらの疾患を持っている方はクロム摂取を控えてください。
    妊娠中や授乳中の人
    14~18歳は妊娠中は1日29μg、授乳中は44μgが目安量です。19~50歳は妊娠中は1日30μg、授乳中は45μgです。
    目安量を越えて多量に摂取した場合の、母体や胎児への影響はデータが不十分なので、クロムを摂りすぎないようにしてください。

    注意すべき相互作用

    クロムは医薬品やハーブ・健康食品(サプリメント含む)との相互作用があるとされています。[※2]

    【医薬品との相互作用】
    体内のクロム量を増加させ、副作用をまねくおそれがあります。
    アスピリン
    非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)
    血糖値を過度に低下させるおそれがあります。
    インスリン
    糖尿病治療薬
    レボチロキシンナトリウムの吸収量の低下や効果を弱めるおそれがあります。
    レボチロキシンナトリウム水和物
    【ハーブや健康食品との相互作用】
    クロムを含有しているハーブやサプリメント
    ツクシ(スギナ)やカスカラサグラダといったクロム含有のハーブとクロムサプリメントを長期にわたって併用すると、クロム中毒のリスクが高まります。
    血糖値を下げるハーブやサプリメント
    クロムには血糖値を下げる効果があるため、ハーブやサプリメントとの併用で過度に血糖値が下がってしまう可能性があります。気をつけたい成分は、α-リポ酸、ニガウリ、デビルズクロー、フェヌグリーク、ニンニク、グアーガム、セイヨウトチノキ、朝鮮人参、サイリウム、エゾウコギなど。
    クロムが、体内にある鉄分が利用されるのを阻害するおそれがあります。
    ビタミンC
    併用することで、クロムの吸収量が増加するおそれがあります。クロムの摂取量が多い場合、過剰摂取に注意が必要です。
    亜鉛
    併用すると、クロム・亜鉛それぞれの吸収量が低下するおそれがあります。

    参照・引用サイトおよび文献

    1. 【PDF】厚生労働省 「6. 2. 7.クロム(Cr)」
    2. 田中平三ほか『健康食品・サプリメント[成分]のすべて 2017 ナチュラルメディシン・データベース』(株式会社同文書院 2017年1月発行)
    3. e-ヘルスネット 「ミネラル(みねらる)」
    4. 川島由起子 『カラー図解 栄養学の基本がわかる事典』(西東社  2013年発行 p178)
    5. Lewicki S, Zdanowski R, Krzyżowska M, Lewicka A, Dębski B, Niemcewicz M,Goniewicz M. The role of Chromium III in the organism and its possible use in diabetes and obesity treatment. Ann Agric Environ Med. 2014;21(2):331-5. doi:10.5604/1232-1966.1108599. Review. PubMed PMID: 24959784.
    6. Jain SK, Kahlon G, Morehead L, Dhawan R, Lieblong B, Stapleton T, Caldito G,Hoeldtke R, Levine SN, Bass PF 3rd. Effect of chromium dinicocysteinate supplementation on circulating levels of insulin, TNF-α, oxidative stress, and
    7. insulin resistance in type 2 diabetic subjects: randomized, double-blind,placebo-controlled study. Mol Nutr Food Res. 2012 Aug;56(8):1333-41. doi:10.1002/mnfr.201100719. Epub 2012 Jun 6. PubMed PMID: 22674882; PubMed Central PMCID: PMC4077620.
    8. Sundaram B, Singhal K, Sandhir R. Anti-atherogenic effect of chromium picolinate in streptozotocin-induced experimental diabetes. J Diabetes. 2013 Mar;5(1):43-50. doi: 10.1111/j.1753-0407.2012.00211.x. PubMed PMID: 22650796.
    9. 【PDF】 『家庭』 (第一学習社 2015年発行 第29号)
    10. 【PDF】総説 クロムはヒトの栄養にとって必須の微量元素だろうか?(日本衛生学雑誌 67巻 2012年発行)
    11. 【PDF】内閣府 食品安全委員会 「クロム」
    12. 厚生労働省 「総合医療情報発信サイト|クロム」