クロロゲン酸はコーヒーから見つかった、コーヒーポリフェノールとも呼ばれる成分。コーヒーのほかにも、双子葉植物(根っこに主根がありひげが伸びていくタイプの植物)の種や葉からも見つかっています。たとえば、じゃがいもやさつまいも、りんごなどです。
クロロゲン酸のクロロは緑色を意味しており、クロロゲン酸と鉄イオンを含む液体を合わせると緑色になります。また、コーヒーの酸味や渋みはクロロゲン酸によるもの。抽出時間によって味が変わる特徴があります。
このページでは、クロロゲン酸の効果効能や作用のメカニズム、副作用などについてわかりやすく解説しています。
クロロゲン酸はポリフェノールの一種です。コーヒーから見つかったことからコーヒーポリフェノールともいわれています。
カフェオイルキナ酸やフェルロイルキナ酸、ジカフェオイルキナ酸などがあり、これらを総称してクロロゲン酸類となります。コーヒーに含まれているクロロゲン酸類は全部で9種類です。コーヒーの香りや褐色はクロロゲン酸によるものです。
クロロゲン酸はコーヒーに豊富に含まれています。コーヒー100mlに含まれるポリフェノール(クロロゲン酸含む)の量は約280mg。[※1]カフェインの量は約60mgです。実はカフェインよりも、ポリフェノールの含有量のほうが多いのです。[※2]
クロロゲン酸は、コーヒーの健康効果が注目され始めた1990年代から研究が進められており、抗酸化作用や中性脂肪の抑制作用などがあるとされています。
クロロゲン酸には以下のような効果効能があります。
■脂肪肝の予防
クロロゲン酸は血中の中性脂肪を抑え、肝臓を保護する効果があるとされているため、脂質が肝臓に溜まってしまう脂肪肝を予防してくれます。[※3]
■糖新生抑制作用
クロロゲン酸には糖新生(肝臓がアミノ酸などから糖分をつくるシステム)を抑制する効果があるため、血糖値を穏やかに保ちます。糖尿病の予防やダイエットにつながるとされています。[※4]
■抗酸化作用
クロロゲン酸を含むポリフェノールには抗酸化作用があるため、美容や健康維持に役立つでしょう。生活習慣病の予防にも効果的とされています。
■抗がん作用
クロロゲン酸の抗酸化作用により、がんの浸潤が抑制され、がん細胞自体の増殖を抑える効果があるとされています。
■ダイエット効果
クロロゲン酸には脂肪や糖をエネルギーにする働きをサポートする作用があるため、ダイエット効果が期待できます。[※5]
■シミ予防
クロロゲン酸にはメラニンの生成を抑制し、シミを防ぐ効果があります。[※6]
クロロゲン酸にはα-グルコシターゼ阻害作用やグルコース-6-リン酸運搬酵素阻害作用、消化管におけるホルモン分泌作用があります。これらは糖尿病の予防やダイエットにつながる作用です。[※5]
α-グルコシターゼはヒトの小腸にある消化酵素。ショ糖(砂糖)を含む二糖類を単糖類へ分解する働きをもっています。分解された糖が体内に取り込まれると、血糖値は上昇する仕組みです。クロロゲン酸はこの働きを阻害し、血糖値の上昇を抑制します。[※7]
細胞中に存在するグルコース-6-リン酸は、グルコース-6-ホスファターゼの働きによってリン酸が外れるとグルコース(糖)になります。この作用を“糖新生”といい、体内のグルコースが不足したときに肝臓で起こります。
糖新生によってつくられたグルコースは血中に放出され、血糖値が上昇するのですが、ロロゲン酸にはグルコース-6-ホスファターゼの働きを阻害する作用があるため、血糖値の急な上昇を防ぐのに役立つとされています。[※7][※8]
クロロゲン酸はリパーゼ(食事の脂質を分解して脂肪の吸収を高める酵素)の働きを阻害する成分。脂肪が分解されるのを抑制するため、体に脂肪が付きにくくなるのです。ダイエット効果は、クロロゲン酸のリパーゼ阻害作用によるものとされています。[※9]
クロロゲン酸には抗酸化作用や抗がん作用があるという報告が上がっています。[※10]
クロロゲン酸が過酸化水素水を介して、口腔がんの細胞障害性誘発が示唆されていたり、[※11]発がん物質のニトロソアミンの生成を抑制し不活性化したりという作用などから、抗がん作用もあるとされています。[※12]
サツマイモから抽出したクロロゲン酸を使って、マウスのメラニン生成を抑制する働きを調べた研究があります。「B16メラノーマ細胞」はガン化したマウスのメラノサイト(メラニンが生成される細胞)ですが、そのままの状態では、どんどんメラニンを生成します。しかし、実験の結果クロロゲン酸はマウスメラノーマB16細胞へ、メラニン生成抑制を働きかけました。[※13]
別の実験では表皮の細胞を培養し、メラニンの元となるメラノソームを入れ、何もしない状態とクロロゲン酸を入れたときとで、表皮細胞への取り込まれる様子を比べました。
その結果、クロロゲン酸がメラノソームの取り込みを抑えていることが判明。また、メラニンの生成自体を抑制する作用も明らかとなりました。[※6]
これらの実験から、クロロゲン酸にはシミ予防の効果があるとされています。
クロロゲン酸には肝臓保護作用や中性脂肪の抑制、抗酸化作用など[※3][※4]があるため、以下のような人におすすめです。
クロロゲン酸を摂取するなら、コーヒーで摂るのが手軽でしょう。コーヒー100mlあたりのポリフェノール(クロロゲン酸含む)量は280mgです。[※1]
じゃがいもやさつまいも、りんごなどにも含まれていますが、含有量はコーヒーほどではありません。
クロロゲン酸をコーヒーで摂取する場合は、カフェインも一緒に摂ることになるため注意が必要です。国によって定められた摂取上限はありませんが、カフェインについては厚生労働省が過剰摂取について注意喚起しています。[※14]
また、海外ではカフェインの摂取上限について言及している国もあります。
1日のカフェイン量/mg | 公表機関 | |
---|---|---|
健康な成人 | 400 | カナダ保健省(HC) |
妊婦 | 300 | カナダ保健省(HC) |
200 | 英国食品基準庁(FSA) | |
コーヒーをカップ3~4杯 | 世界保健機関(WHO) | |
13歳~ | 体重1kgあたり2.5g | カナダ保健省(HC) |
10~12歳 | 85 | |
7~9歳 | 62.5 | |
4~6歳 | 45 |
※世界保健機関(WHO)・英国食品基準庁(FSA)・カナダ保健省(HC)
カフェインの摂取量をカナダに合わせる場合、健康な成人は1日400mgとなります。これは約700mlのコーヒーに相当し、その中に含まれるポリフェノール(クロロゲン酸含む)は約1960mgとなります。
カフェインが体質に合わない人は、クロロゲン酸を含む別の食品やサプリメントで補うといいでしょう。サプリメントで摂る場合は、商品ごとに摂取量を守って、過剰摂取にならないようにしてください。
気をつけなければいけないのは、エナジードリンクや眠気覚ましのドリンクです。これらのカフェイン含有量を確認して、カフェインの取りすぎに注意しましょう。
香港理工大学応用生理学研究科食品安全技術研究センターで行われた実験では、高コレステロールのマウスにクロロゲン酸を28日間投与したところ、血中のコレステロール値や動脈硬化のリスクが減少したという結果がでました。[※15]
西安交通大学で行われた別の実験では、肝障害を起こしているラットへクロロゲン酸を投与したところ、肝臓のコラーゲンの増加やアクチンというたんぱく質の発現増加が認められました。さらに、肝障害が原因の炎症が抑制したことから、クロロゲン酸には肝臓を保護する作用があると考えられています。[※16]
クロロゲン酸がもつ、糖新生抑制作用に関する研究結果も見てみましょう。
シンガポール国立大学にて実施されたマウスを使った実験では、空腹時の血糖値の低下がクロロゲン酸を投与してから10~30分ほど続きました。クロロゲン酸が血中の糖分(グルコース)を筋肉へ取り込むように促していることがわかりました。[※17]
糖尿病のラットにテトラヒドロクルクミンとクロロゲン酸を併用して投与したアンナーマライ大学実験では、糖尿病の症状が緩和される結果となりました。このことから、糖尿病の改善効果が期待されています。[※18]
クロロゲン酸はコーヒー豆から初めて発見された成分で、発見当時はタンニンの仲間とされていました。今では別物とされています。クロロゲン酸はコーヒーに含まれるポリフェノールの代表。コーヒーには9種類のクロロゲン酸類が含まれています。
1996年にコーヒーの香りに抗酸化作用があるのではないかと発表されると、香り成分がもつ抗酸化作用のメカニズムに関する研究が進められ、コーヒーに含まれるポリフェノールの働きではないかとされました。[※19]
現在、抗酸化作用はポリフェノールに含まれるクロロゲン酸によってもたらされている可能性が高いというところまでたどり着いています。
抗酸化作用のほかには、肝臓の保護作用や糖尿病の予防効果などについて研究が進められています。
日本ではトクホや機能性表示食品として、クロロゲン酸含有のドリンクなどが販売されています。
ポリフェノールの研究を進めている東洋大学食環境科学部の近藤和雄教授は、コーヒーの摂取量について次のように述べています。
「科学的に考えるなら、『1日に何杯』というよりは、ポリフェノールの含有量で考えなければなりません。私の考えでは、1日当たり1000ミリグラムのポリフェノールを摂取すると、効果的な抗酸化作用が得られると見ています。
この量のポリフェノールをコーヒーだけで摂ろうとすると5杯、お茶だと10杯となります。お茶の10杯は大変ですが、コーヒーを1日に5杯飲む人って意外にいるんですよ」(「全日本コーヒー協会 美人をつくる、コーヒーの飲み方 連載第1回 シミの予防にコーヒーを。」より引用)[※20]
近藤氏の見解では、クロロゲン酸を含むコーヒーを日常的に摂取することで健康維持につながるとのことです。さらに、今では嗜好品となっているコーヒーの歴史について以下のように語っています。
「コーヒーもお茶も、歴史を辿っていくと、最初は『薬』として用いられていたものなんですね。それだけ『体にいい成分』が含まれているといえるのです、単に水だけを飲んでいるのと、日常の生活でコーヒーを飲む習慣を持つのとでは、大違いなんです」(「全日本コーヒー協会 美人をつくる、コーヒーの飲み方 連載第5回 ポリフェノールの抗酸化作用で、アンチエイジングをめざせ!」より引用)[※21]
専門家のコメントからも、クロロゲン酸含むコーヒーのポリフェノールは、複数の効果をもつ体にいい成分だとわかるでしょう。
クロロゲン酸は主にコーヒーに含まれています。その他にも、じゃがいもやさつまいも、リンゴなどが含有していますが、コーヒー豆ほど高濃度ではありません。
クロロゲン酸は、コーヒー豆の種類や焙煎の仕方によって含有量が変化します。ブラジル産のロブスタ種のほうが、アラビカ種よりも含有量が多いです。また、焙煎の度合いが深くなるにつれてクロロゲン酸は分解され、カフェ酸とキナ酸に変化するため、含有量は低下します。[※22]
クロロゲン酸をより多く摂取したい場合は、ロブスタ種を浅く煎った豆で淹れたコーヒーを飲むと良いでしょう。
クロロゲン酸の抗酸化作用を高めてくれる成分はビタミンCです。ビタミンCにも高い抗酸化作用があるため、両者を一緒に摂ることで相乗効果が期待できます。[※23]
クロロゲン酸は薬品ではないため、副作用は認められていません。しかし、クロロゲン酸には金属キレート作用があるともいわれているため、摂り過ぎると鉄分やミネラルなどの吸収が阻害されるおそれがあります。