脂肪の分解に欠かせないカルニチン。体内で、合成されるアミノ酸のひとつで、脂肪をエネルギーに変えるはたらきがあります。その効果から、ダイエットのサポートや運動時のスタミナアップに期待が高まっています。加齢に伴って合成量が減少するので、日頃から食品で摂取することが望まれます。
カルニチンはアミン酸から生合成される誘導体で、脂質代謝を促すビタミン様物質です。リジンとメチオニンから構成されており、肝臓や腎臓で合成されます。
体内のほぼすべての細胞に存在し、ヒトでは主に骨格筋や心筋、脳などに存在しています。[※1]
必須アミノ酸のリジンは、体内で生成されないため、食事から摂取する必要があります。
また、カルニチン合成には、ビタミンC、ビタミンB6、ナイアシン、鉄分が使われる[※1]ことから、不足しがちなビタミン・ミネラルを日頃から摂取することが、カルニチン不足を防ぐことに繋がります。
エネルギーを多く必要とする成長期の子どもや妊娠中も不足しないよう心がけましょう。
カルニチンには次のような効果・効能があるといわれています。
■疲労回復作用
カルニチンは脂質のエネルギー代謝に関与するため、不足すると活動に十分なエネルギーを作り出せず、疲れやすくなってしまいます。カルニチンが十分に合成されれば活動エネルギーが確保でき、疲労の回復に役立ちます。慢性疲労の原因はカルニチン不足によるものだという説もあります。
■ダイエット効果
脂肪の燃焼を助けるはたらきがあることから、ダイエットや肥満予防への効果が期待されています。[※8]
■運動パフォーマンスの増加
運動のパフォーマンスを高める点で、アスリート選手によっては運動前に摂取することがあるようです。持久力をアップさせ、筋肉疲労やだるさを解消します。[※6]
■生活習慣病予防効果
エネルギー代謝を促すことで、肝臓や心臓への脂肪蓄積を防ぐはたらきがあり、肥満が原因の生活習慣病を予防することが期待されています。とくに、中性脂肪やLDLコレステロール(悪玉コレステロール)の低下が期待できます。[※4]
また、カルニチンは抗酸化作用を持つため、活性酸素が引き起こす生活習慣病を予防するはたらきもあります。[※23]
腎機能改善についても研究がすすめられています。心臓に脂肪が蓄積するのを防ぐことから、狭心症などの冠動脈疾患に関する有効性も認められています。[※3][※4]
■不妊治療(男性不妊の改善)
カルニチンは精子のエネルギー代謝に関与し、不妊改善が期待されています。
他にも、カルニチンには、脳を活性化して記憶力や学習能力を高めるはたらきがあることが報告されています。
カルニチンは、アミノ基とカルボキシル基をもつ化合物で、ひとつをL-カルニチン、もうひとつをD-カルニチンといいます。
さまざまな健康効果がみられるのはL-カルニチンのみで、D-カルニチンはL-カルニチンのはたらきを阻害し、欠乏症を引き起こすこともあります。[※4]ここでの説明は、L-カルニチンについておこなっています。
カルニチンのはたらきは大きく2つに分かれます。
そのひとつは、脂肪の燃焼促進です。
脂肪をエネルギーにする過程で、脂肪は消化され、体内に吸収されると、遊離脂肪酸を放出します。放出された脂肪酸は血液中に運ばれ、細胞内にあるミトコンドリアに運ばれ、ここでエネルギーの変換が行われます。
遊離脂肪酸を筋肉細胞内にあるミトコンドリアに運ぶ役割をしているのがカルニチン。脂肪酸がミトコンドリアの二重の膜を通過するために利用されています。
不足すると、ミトコンドリアに脂肪酸を運べないため、エネルギーを作りだすことができず、疲れやすくなることもあります。
また、ミトコンドリアに取り込まれず、使われなかった脂肪酸は、内臓や皮下脂肪に蓄積され、肥満の原因となります。
さらにその状態が長く続くと、動脈硬化が進行し、生活習慣病を引き起こすことにもつながります。[※3][※6]
2つ目は、酵素の生成です。
脂肪には、体内に蓄積される白色脂肪細胞と、脂肪を燃焼して熱を産生する褐色脂肪細胞があります。
カルニチンは、褐色脂肪細胞を活性化して、脂肪を分解するリパーゼという酵素を作り出します。リパーゼは脂質を分解し、エネルギーになりやすい遊離脂肪酸に変えるはたらきがあります。[※2]
ところが、カルニチンの合成は20代でピークをむかえ、その後は加齢に伴い減少します。60代になると20代の6割程度しか合成できないという情報もあります。[※3]
また、間違ったダイエットや激しい運動によって、材料となるアミノ酸が不足することがあります。高齢者の場合は、動物性たんぱく質の摂取量が減ることによってアミノ酸の摂取量も不足し、カルニチンの合成量も減ってしまいます。
日頃の食事で、カルニチンの材料となる良質なたんぱく質やビタミンやミネラルを積極的に摂ることをお勧めします。
カルニチンは、脂質の代謝に不可欠なため、すべての人に必要な栄養素です。加齢に伴い合成量が減少することから、年を重ねるにつれて、体外からの摂取が必要となります。[※23]
脂肪の代謝を高めるので、ダイエットをしたい人や、運動をする人に適しています。運動をする場合、開始30分前を目安に摂取すると、脂肪燃焼を助け、エネルギーとして活用しやすくなります。[※9]
カルニチン入りのスポーツドリンクやプロテインなどがおすすめです。
カルニチンは体内でも生成されるため、日本人の食事摂取基準においては、摂取目安量・上限摂取量は定められていません。[※1]
妊娠中の安全性について、十分なエビデンスが得られていないため、使用を避けた方が良いでしょう。授乳中については、適切に用いれば安全性が示唆されています。[※4]
過剰摂取は、吐き気や嘔吐、下痢や胸やけを起こすことがあり、その目安は1日3g以上の摂取は控えましょう。
Wutzke KD.らの研究によると、12人の対象者に10日間、カルニチンの補給をせずに食事を提供し、脂質混合物を投与したのち、たんぱく質の代謝および脂肪酸化について、尿や呼吸から測定しました。
その結果、たんぱく質の合成や分解速度に変化はみられませんでした。また、過体重の被験者における脂肪酸化の増加に有意な増加がみとめられました。このことから、カルニチンの補給は過体重の脂肪燃焼に影響することがわかりました。[※16]
Lohninger らは、長期耐久訓練が異なる組織における細胞適合を誘導するという仮説を検証するために、若年アスリートおよび中年の訓練をしていない対象者からの骨格筋および血液細胞におけるこれらの遺伝子の相対的なmRNA量を決めました。
ひとつめは、6人のクロスカントリースキーヤーを対象に、訓練の開始時と6か月後の同じ運動強度における乳酸蓄積速度を調べました。次に、24人の中年プレイヤーをプラセボ群とカルニチン補充群に分け、耐久トレーニングプログラムを行い、3か月後のmRNA発現を測定しました。
その結果、カルニチン補給をしたアスリートのmRNA含有量は増加していました。血漿カルニチン濃度は低いままでしたが、若いアスリートではカルニチン摂取後に有意に増加しました。中年プレイヤーにおいてもプラセボ群に対して増加しました。このことから、持久力運動をする際のカルニチンの摂取は、筋肉中の遺伝子発現を刺激していることが示唆されます。[※17]
Wall BTらは、14名の男性を対象に、炭水化物とカルニチンの長期投与が筋肉のカルニチン含有量やヒトの代謝に及ぼす影響を調査しました。12種間隔で3回来院してもらい、安静時および運動後の筋生検を実施しました。
その結果、24週後、カルニチン投与群で筋肉中のカルニチンは増加しましたが、対照群では変化がありませんでした。このことは筋肉中のカルニチンは、食事によって増加し、運動中のグリコーゲンの節約となり、エネルギー産生を促すことが示唆されています。さらに、この変化は運動能力の改善とも関連していました。
日頃からカルニチンを食事から摂取することで、筋肉中のカルニチンを増やし、脂肪燃焼の代謝をよくすることがわかりました。[※18]
Francis B Stephensらは、12人の男性を対象に、80gの炭水化物を与える群、80gの炭水化物+1.36gのカルニチンを与える群の2群に分け、それぞれ12週間の食事を継続しました。12週間後、CPT1活性、筋肉中の総カルニチン、長鎖アシルCoA、全身のエネルギー消費について、対照群に変化は見られませんでしたが、カルニチンを与えた群では増加傾向となりました。
さらに、体重と全身脂肪量について対照群は増加しましたが、カルニチン群では変化しませんでした。このことから、長期にわたるカルニチン投与は、筋代謝、エネルギー代謝、体組成の調整に影響するといえそうです。[※19]
BOE M. BURRUSらは、10名の男性を対象に、運動の2時間前と30分前にカルニチンを投与し、V0265%で40分のサイクリング、続いてVO285%でのサイクリングを実施し、呼吸交換比、血中乳酸塩、および時間当たりの出力から疲労状態と時間との差異を分析しました。
その結果、カルニチンを摂取した群で、VO265%での乳酸塩は有意に低くなりました。VO285%では動力出力また疲労時間に差はみられませんでした。
このことから、カルニチンおよび炭水化物の急激な摂取は、骨格筋に蓄えられているカルニチンに十分な変化を与えるわけではなく、運動のパラメーターには影響を与えないことがわかりました。運動直前のカルニチン摂取は、運動のパフォーマンスには影響しないといえそうです。[※20]
1905年にロシア人研究者によって、肉汁中から筋肉の成分として発見されました。[※3][※10]筋肉から見つかったため、ラテン語の「carns」からカルニチンと名づけられました。
1927年、カルニチンの構造が判明し、1935年には、L-カルニチンについての論文がドイツ人研究者によって発表され[※11]、カルニチンについての情報がより増加しました。
50年ほど前までは、心臓病の治療薬として使用されており、肝臓における脂肪酸の酸化に不可欠な物質であることもわかっています。[※12]
1962年に、カルニチンのもつ脂肪燃焼作用が発見され[※13]、ダイエットに効果があることが注目されるようになりました。
その後も、ヒトにおけるカルニチン欠乏症の発見[※14]、カルニチン欠損症モデルマウスの発見[※15]など、研究は活発となっています。
2003年に日本では医薬品として扱われていたカルニチンが食品として認可され、健康食品の成分として利用されるようになりました。[※24]
2004年にはドイツで傾向摂取したカルニチンによって脂肪燃焼が促進されることが研究によってわかりました。[※16]
それ以降、脂質代謝アップに関する研究や持久力アップに関する研究、筋肉痛低減に関するものなど、運動に関する研究に注目が集まり、ダイエット効果が取り上げられるようになりました。[※7]
運動をしない人と比べて運動をしながらカルニチンを摂取する人の方が、体内でカルニチンがよりはたらきやすくなり、脂肪燃焼が促進されるという研究もあります。[※17][※18][※19][※20]
2011年以降は、カルニチンが脂肪燃焼だけでなく、糖の代謝にも役立っているという可能性が示唆されています。[※21]
伊藤ハム(株)の若松純一氏は生活科学雑誌の中で以下のように発言しています。
「近年、食肉については健康に及ぼす悪影響ばかりが誤解されて喧伝されていますが、L-カルニチンのような食肉中の有効な成分の存在も考慮し、食品としての価値を見直す必要があるのではないか」[※22]
また、金沢大学医学部付属病院教授の宮本謙一氏は、「カルニチンは量的には骨格筋に多く存在する物質であり、その乾燥重量の約1%が含まれています。食肉の摂取は重要と考えられます」と発言しています。[※10]
単独の栄養素が注目される中、食品からの摂取も是非見直したいものです。
カルニチンのうち、75%が食事によって摂取され、残りの25%は体内で合成されます。体内での合成量は1日約10㎎程度です。[※1]
食事から摂取する場合、カルニチンは動物性食品と乳製品に多く含まれています。
平均的なアメリカ人では1日にL-カルニチンを100~300mg摂取していると言われていますが、日本人では、これより低い数字と考えられます。[※22]
牛や豚では、脂身より赤身の部分、肉の中では、牛肉ならランプ、豚肉ならロース、羊肉ならラムやマトンなどに多く含まれています。[※23]
アサリやカキなどの貝類、アジ・サンマ・カツオなどのEPA・DHAを多く含む青魚、牛乳、アボカドにも含まれています。
赤身すなわち褐色脂肪細胞を多く持つ動物はカルニチンの供給源となるのです。
日本人には羊ややぎを日常的に食べる習慣がないため、積極的に摂取するならサプリメントを選ぶのも良いでしょう。ただし、天然由来成分のカルニチンを選ぶことをお勧めします。
カルニチンが動物性食品に含まれるものが多いため、脂肪の代謝に必要なビタミンB群と一緒に摂ることで、脂肪燃焼を促進してくれます。
カルニチンによって生成された遊離脂肪酸は、利用されなければ元の脂肪に戻ってしまいます。それを防ぐため、共役リノール酸と同時に摂取することで、脂肪燃焼をより効率的に高めることができるといわれています。
共役リノール酸は牛乳やバターなどの乳製品や動物性たんぱく質に含まれていますが、カルニチンのサプリメントには、共役リノール酸も一緒に摂取できるタイプのものもあるようです。
カルニチンを合成するためには、リジンとメチオニンだけでなく、ビタミンC、ナイアシン、ビタミンB6、鉄が必要となります。[※5]
ビタミンCやナイアシンを多く含む野菜や果物、ビタミンB6や鉄を含む動物性食品など、食卓に欠かさないようにしましょう。
一度にたくさん摂取するものではなく、毎日少しずつでも継続的に摂取することが望まれます。[※23]
体内で合成されるため、副作用は心配ありませんが、不足すると「カルニチン欠乏症」を引き起こします。欠乏症になると、筋肉痛、疲労、低血糖、錯乱などの症状がみられることがわかっています。
加齢や先天性の疾患がある人、食事が不足している人、筋肉量が少ない人などは不足しやすいので、日頃からしっかりと動物性食品を摂取することをおすすめします。
血液透析、無尿症、尿毒症、慢性肝疾患等の病歴がある場合は、摂取を避けた方がよいでしょう。
欠乏症の原因は2つ考えられます。[※1]
ひとつはカルニチン輸送システムの遺伝性疾患で、5歳頃までに心筋症、骨格筋の脱力、低血糖などの症状が見られます。
もうひとつは、特定の疾患や特定の状況が原因で引き起こされる欠乏症。吸収が阻害されたり、排泄が増加したりすることで、体内のカルニチンが欠乏してしまいます。
また、加齢、極端な食事制限、筋力低下がある場合にも欠乏症が起こる可能性があります。その場合、筋肉痛、低血糖、疲労などの原因になっていることがあります。
医薬品のうち、血液を固まりにくくする薬や甲状腺ホルモンの薬を飲んでいる場合は、主治医に相互作用などがないか、確認するようにしましょう。