ビール酵母とは、ビールをつくる際に活躍する微生物です。18種類のアミノ酸、17種類のビタミン、14種類のミネラル、食物繊維、核酸などの栄養素が含まれている[※1]ことから、健康食品や医薬部外品として利用されています。
あまり知られていないビール酵母の効果効能、作用のメカニズム、研究データや副作用に関する情報を分かりやすく解説しています。
ビール酵母は直径わずか0.005~0.01mmの単細胞生物です。麦汁からビールを醸造する過程で生まれるため、ビール酵母と呼ばれています。遺伝子をもつ核、核を覆う細胞膜、細胞膜を覆う細胞壁によって構成された、人の細胞と同じ構造が特徴です。
ビール酵母には次のような成分が豊富に含まれており、健康食品や医薬部外品などに利用されています。
一部では「ビール酵母にダイエット効果がある」と話題になっていますが、ビール酵母が脂肪を燃焼するわけではありません。
さまざまな栄養素をまとめて摂取できるのに低カロリーな点や、食物繊維が含まれていて満腹感が持続することから、ダイエットの手助けをしてくれているのです。
また、グルタミン酸やイノシン酸などのうま味成分が豊富に含まれていることから、調味料としても使用されています。[※2][※3]
ビール酵母には次のような効果・効能があると考えられています。[※2][※3][※4]
■便秘解消効果
ビール酵母には水溶性の食物繊維が豊富に含まれているため、便秘解消効果が期待できます。
■胃腸の調子を整える効果
ビール酵母は消化酵素のはたらきを活性化して食欲不振を防ぎます。また、ビール酵母に含まれている食物繊維は、ビフィズス菌の増殖を促して腸内環境を整えます。
■食べすぎ防止効果
ビール酵母に含まれる食物繊維が腸内でふくらんで満腹感を生むため、食べすぎを防ぎます。
■疲労回復効果
ビール酵母には筋肉や神経の疲れをやわらげるビタミンB群が含まれています。また、エネルギー源となる必須アミノ酸も含まれているため、疲労回復効果が期待できます。
■美肌・美髪効果
ビール酵母に含まれるミネラルやビタミンのはたらきによって、肌や髪の調子を整えられるといわれています。
■血糖値を下げる効果
ビール酵母に含まれるミネラルが血糖値を下げるインスリンのはたらきをサポートして、血糖値を下げます。
■貧血を改善する効果
ビール酵母に含まれるアミノ酸がヘモグロビンの材料となるたんぱく質を増やして貧血を改善します。
また、ビタミンやミネラルなどの栄養素を含むビール酵母製剤においては、月経前症候群(PMS)の症状を軽減する可能性があると科学的に示唆されています。
ビール酵母には、体内で生成されない9種類の必須アミノ酸が含まれており[※2]、これらの必須アミノ酸は代謝や分解方法の違いによって3パターンに分類されます。[※5]
■ビール酵母に含まれる必須アミノ酸の分類について
代謝・分解の過程で糖の合成に利用できる成分に変化します。
該当する必須アミノ酸:メチオニン、バリン、ヒスチジン
代謝・分解の過程でケトン体(エネルギーのもと)になります。
該当する必須アミノ酸:リシン、ロイシン
該当する必須アミノ酸:トリプトファン、フェルアラニン、イソロイシン、トレオニン
糖とケトン体は、どちらも人間の生命活動に欠かせないエネルギー源です。ビール酵母は、糖やケトン体の原料となる糖原性アミノ酸とケト原性アミノ酸、そして両方を兼ねるアミノ酸のすべてを含有しているため、体のエネルギー供給を大きくサポートしてくれます。
糖は重要なエネルギー源で、糖が不足したり糖代謝に必要な栄養素が不足したりすると疲労物質の乳酸が生成されます。[※6][※11]
ビール酵母には、「糖になるアミノ酸」と「ケトン体になるアミノ酸」の両方が含まれているほか、エネルギー代謝に必要なビタミンB群が含まれているため、バランスよくエネルギーを補えるでしょう。[※2]
■ミネラル「クロム」の作用
ビール酵母に含まれるクロムは、血糖値を下げるインスリンのはたらきをサポートしてくれます。クロムは糖尿病患者に不足しがちな成分なので、ビール酵母を摂取すると血糖値が下がるのは、ビール酵母に含まれるクロムの影響だと考えられています。[※4]
■食物繊維「βグルカン」の作用
ビール酵母に含まれるβグルカンは、ビフィズス菌の増殖を手助けしてくれます。ビフィズス菌が増えると腸内環境が整い、腸の免疫機能が向上します。βグルカンは水に溶けやすく、腸内の不要物質を絡めとりながら体外へと排出されるため、便秘解消に繋がります。[※2]
■ビタミンB群の作用
ビール酵母に含まれるビタミンB群(B1、B2、B6、葉酸など)は、筋肉や神経の疲れをやわらげる作用をもっています。
また、アミノ酸を代謝してエネルギーをつくる過程(TCA回路)ではビタミンB群が必要になります。
つまりビール酵母に含まれるビタミンB群は、疲労緩和とエネルギー供給の両方で活躍しているのです。
またビール酵母には、アミラーゼやプロテアーゼなどの消化酵素のはたらきを高める作用があり、消化不良や食欲不振などを防ぎます。[※2]
ビール酵母は栄養が不足しがちな人が摂るべき成分です。ビール酵母を摂取することで50種類の栄養素をまとめて補給できる[※1]ため、栄養不足によって崩れていた体調の改善が期待できます。
食品としてのビール酵母の摂取目安量は1日あたりの6g(粉末)です。上限量はとくに設けられていません。[※4]
アサヒグループは、妊娠ラットと妊娠していないラットを使って5つのグループにわけ、鉄欠乏症貧血に関する実験を行いました。5つのグループにはそれぞれ次の餌を21日間与えています。
実験の結果、妊娠ラットは妊娠していないラットに比べて鉄欠乏性貧血症状が悪化することがわかりました。また、各グループで測定した赤血球量やヘモグロビン濃度などを比較した結果、鉄欠乏性貧血の悪化を抑えられたのはビール酵母を含む餌を与えた妊娠ラット(3群と5群)だったと報告されています。
このことから、妊娠時の鉄欠乏性貧血の悪化を抑えるために、ビール酵母が役立つ可能性があると考えられています。[※7]
ほかにも、金沢医科大学総合学科の高橋孝教授らは、2007年に慢性疲労症候群に対するビール酵母の効果を調べる研究を実施。実験の対象となったのは、疲労状態のモデルマウスです。ビール酵母エキスを与えるグループと与えないグループにわけて42日間の比較実験を行いました。
その結果、ビール酵母エキスを与えたグループは自発的な運動量が増え、与えなかったグループよりも疲れにくくなったと報告されています。[※8]
さまざまな酵母の中で、最初に発見されたのはビール酵母だといわれています。発見したのはオランダの科学者アントニ・ファン・レーウェンフック(1632-1723年)。手づくりの顕微鏡で発酵中のビールを調べていた際に発見したそうです。
日本にビール酵母が渡ってきたのは明治時代(1868-1912年)。大日本麦酒株式会社(現:アサヒグループ)がビール酵母の効果に注目して、研究がはじまりました。
大日本麦酒株式会社の研究員らは、イギリス雑誌に掲載されていたビール酵母の記事をきっかけに、薬品や食品の開発にいち早く取り組んだようです。その後、1930年にはビール酵母を使った指定医薬部外品を日本で初めて発売しました。[※9]
1994年より生物学や栄養学に関する執筆活動を行っている薬学者・生田哲氏は、ミネラルを豊富に含むビール酵母について自身の著書『病気知らずのビタミン学』に次のように記しています。
「インスタント食品を食べすぎると、マイナー・ミネラルの不足はいっそう深刻になる」
「ビール酵母には、カルシウム、リン、カリウム、マグネシウムなどのメジャー・ミネラルのばかりか、鉄、亜鉛、銅、セレンなどのマイナー・ミネラルも豊富に入っている」
「ビール酵母はもともと微生物なので、ある特定のミネラルだけが極端に多いということがなく、必要なビタミンが満遍なく入っている」(病気知らずのビタミン学より引用)[※10]
メジャー・ミネラルは体に多く存在するミネラルの総称です。対して、マイナー・ミネラルは体に少量しか存在しないにもかかわらず、酵素の運搬や活性酸素の分解など、重要なはたらきを担っているミネラルの総称です。[※10]
ビール酵母を摂取することで、メジャー・ビタミンはもちろん、不足しがちなマイナー・ビタミンも補えると生田氏はコメントしています。また、生田氏が述べているように、ビール酵母には体に必要なビタミンとミネラルがバランスよく含まれているため、特定の栄養素だけを摂り過ぎてしまう心配もありません。
ビール酵母は食品として市販されているので、誰でも購入できます。栄養補助のサプリメントとして使われるほか、ビール酵母に含まれる食物繊維の腹もちの良さを活かしてダイエット目的で利用している人も多いようです。
また、料理の隠し味として調味料代わりに使うこともできます。ビール酵母含まれているうま味成分(イノシン酸、グルタミン酸、グアニル酸)は、ダシでお馴染みのかつお節や昆布、しいたけなどに含まれている成分と同じものです。調味料として用いると、コクとまろやかさが増します。
ビール酵母と相乗効果を発揮する成分はビタミンB群。ビタミンB群はビール酵母に含まれる必須アミノ酸を代謝サイクルに欠かせない成分です。ビタミンB群が不足すると、エネルギーになるはずだったブドウ糖は疲労物質(乳酸)に変わってしまいます。[※11]
ビタミンB群はビール酵母内にも含まれていますが、水に溶けやすく体外に排出されやすい性質をもつため、食品やサプリメントなどで定期的に補うようにしましょう。
人によっては頭痛、胃の不調、腸内ガスを発生させるなどの副作用が起こる可能性があります。また、短期間の使用であれば安全性には問題がないといわれていますが、長期間の使用におけるデータは不十分なので、摂取期間が長くならないように気をつけましょう。
また、酵母アレルギーの人は、ビール酵母摂取によってかゆみや腫れが生じることがあります。[※4]
糖尿病治療薬を服用している人は、ビール酵母の作用とあいまって血糖値が大幅に下がる可能性があります。
また、リチウムが含まれるビール酵母と気分安定薬(炭酸リチウム)と併用すると、体内のリチウム量が増加して重篤な副作用を招くおそれがあります。
ビール酵母は真菌なので、感染症の治療に用いられる抗真菌薬と併用すると、ビール酵母の効果が弱まるため、注意しましょう。
ほかにも、ビール酵母には大量のクロムが含まれているため、クロムを含むハーブ(ビルベリー、カステラ、クロミウム、トクサなど)やサプリメントと併用するとクロム中毒(皮膚・呼吸器粘膜の腐食・かいよう)になるおそれがあります。
該当する医薬品やハーブ、サプリメントを摂取している人は、ビール酵母の摂取を避ける、または医師に相談して治療薬の量を調整してもらいましょう。[※4]