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βカロテンの効果とその作用

緑黄色野菜に含まれる色素βカロテンは、体の中でビタミンAとしてはたらく成分です。ビタミンAのような皮膚・粘膜の健康維持や視覚機能の向上などを担うほか、カロテノイドとしての高い抗酸化作用や疾病予防の効果をもつことがわかっています。ここでは、多くの健康増進作用が期待できるβカロテンの効果・効能をまとめました。

βカロテンとはどのような成分か

βカロテンは野菜や果物などに含まれる色素です。

植物の色素であるカロテノイドの中でも野菜に多く入っており、ニンジンやカボチャといった緑黄色野菜はβカロテンの含有量が高くなっています。[※1][※2][※3]

βカロテンは体内に吸収されるとビタミンAとして変換される成分「プロビタミンA)です。[※4]

プロビタミンAにはβカロテンのほかに、αカロテンやクリプトキサンチンなど約50種類の成分がありますが、βカロテンはほかのカロテノイドと比べてビタミンAに変換される割合が大きいといわれています。[※1][※5]

プロビタミンAは必要な量だけビタミンAに変わるので、多く摂っても過剰症の心配はありません。ただし手や足裏が黄色くなることがあるので、摂り過ぎには注意しましょう。

βカロテンは体の中でビタミンAに変わり、皮膚や粘膜の維持を助けるほか、目の機能を向上させるはたらきがあります。また、抗酸化作用が高く、美容やアンチエイジングなどの効果が期待できるのも特徴。

最近ではがんの予防にも役立つと考えられており、今後の研究に期待が高まっています。[※4][※6][※7]

βカロテンの効果・効能

βカロテンには以下の効果・効能が期待できます。[※2][※8][※9][※10][※11][※12][※13]

■糖尿病予防

βカロテンを含む食品を食べることで、糖尿病のリスクが低減するという研究結果が報告されています。

■抗アレルギー効果

研究から、βカロテンを摂取することで免疫細胞を調節し、アレルギーの症状を抑制することがわかっています。

■がんの予防

βカロテンをはじめとするカロテノイド類を摂取することで、発がんリスクを下げることが可能です。

■美肌作用

高い抗酸化作用により、肌にダメージを与える過剰な活性酸素を除去して、シミやくすみのない肌を維持できます。

■健康な皮膚や粘膜を維持する

βカロテンは体内でビタミンAに変わり、皮膚や粘膜を健康に維持するためにはたらきます。そのため、免疫機能が向上し、感染症を予防できます。

■夜盲症の予防・改善

体内でβカロテンはビタミンAに変換され、目の機能を高めます。そのため、夜盲症(光を感じにくくなる症状)を予防・改善できます。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるか

βカロテンには抗酸化作用があり、細胞にダメージを与える過剰な活性酸素を減らしてくれます。そのため、細胞の異常が原因で起こるがんを予防できます。[※2]

また、活性酸素が増えると肌が内部から傷つき、シミやくすみが目立つ肌になります。βカロテンを摂取することで活性酸素を除去し、整った肌を保つことが可能です。[※8]

また、血中のβカロテン濃度が高いと、アレルギーを引き起こすヒスタミンの濃度が低くなります。そのため、アレルギーの予防効果が期待できるでしょう。[※9]

近年では糖尿病の改善にもβカロテンが役立つといわれており、βカロテンが豊富な野菜を多く食べると、糖尿病のリスクを下げられるという研究結果が報告されています。[※10]

また、βカロテンにはプロビタミンAとしてのはたらきもあります。

食物から摂取されたβカロテンは小腸で吸収されます。そのとき必要な量だけ小腸の粘膜でβ-カロテン-15,15’-ジオキシゲナーゼという酵素によってレチナールに変換・還元されると、ビタミンAになって体内の組織へ運ばれます。[※11][※12]

変換されたビタミンAはレチナール、レチノイン酸になり、それぞれ別の組織ではたらきます。

レチナールは、光の明るさを感知するために必要なロドプシンの主成分です。そのため、十分なビタミンAがあれば、目のはたらきを正常に保つことができます。[※2]

レチノイン酸は、遺伝子に作用して皮膚や粘膜などの細胞を増殖・分裂させます。[※12]そのため新しく皮膚や粘膜が入れ替わり、健康な状態を維持。

皮膚・粘膜が正常に機能すると免疫力が上がり、ウイルスや細菌による感染症・病気を防ぐことができます。[※13]

また、レチノイン酸は細胞を新しくするはたらきから、がんの予防にも効果があると考えられています。

どのような人が摂るべきか、使うべきか

βカロテンは体内でビタミンAに変化するため、ビタミンAと同じはたらきが期待できます。そのため、目の疲れや夜盲症、皮膚・粘膜の異常などの症状が出ている人は、βカロテンを摂取すると良いでしょう。

また、ビタミンAにはない抗酸化作用ももっているので、美容に気を遣っている人にもおすすめです。

βカロテンの摂取目安量・上限摂取量

βカロテンは体内でビタミンAに変換されることから、摂取量はビタミンAとまとめられます。

摂取目安量は、日本人の食品摂取基準(2015年版)によると以下の通りです。[※14]

最低量:9.3μgRAE/kg 体重/日

■推奨量

  • 成人男性:800~900μgRAE/日
  • 成人女性:650~700μgRAE/日
  • 幼児(1~5歳):200μgRAE/日以上
  • 妊婦(初期):650~700μgRAE/日
  • 妊婦(中期~後期):730~780μgRAE/日
  • 授乳婦:1100~1150μgRAE/日

※1μgRAE =βカロテン12μg

※RAE(レチノール当量)とは…動物性食品に含まれるレチノールの量とプロビタミンAとして作用するβカロテンの量の合計。

■上限量

βカロテンは必要な分だけビタミンAに変換され、残りは脂肪細胞に貯めこまれるか排出されます。そのため、過剰症の目安となる上限量は決められていません。

ただし、ドイツ連邦リスク評価研究所によると、βカロテンのサプリメントは不明点が多く、健康保護の観点から使用には気を付ける必要があるとのこと。サプリメントとして使用する場合は2mg/日を超えないようにと注意喚起しています。[※15]

βカロテンのエビデンス(科学的根拠)

βカロテンのエビデンスとして、抗アレルギー作用に関する研究があります。

カゴメ株式会社総合研究所は、国立医薬品食品衛生研究所との共同研究で、βカロテンがアレルギーを緩和することを報告しています。

実験では通常のエサを与えるマウスとβカロテン(2mg/100g)を追加したエサを与えるマウスの2グループに分け、それぞれにアレルギーの原因物質を与えています。

結果、βカロテンを与えたマウスはアレルギー症状の軽減や、アレルギー反応にかかわる免疫細胞が調節されていることがわかりました。

このことから、βカロテンには免疫バランスを調節して、アレルギーの予防や長期的な治療ができる可能性が示唆されています。

また、アレルギーを引き起こすヒスタミンの血中濃度も通常のマウスより低かったことから、βカロテンを摂取すると、アレルギー症状が出にくくなるのではないかと考えられています。[※9]

ほかにも、株式会社伊藤園の中央研究所では株式会社TTCと共同研究を行い、βカロテンを多く含むニンジンが美肌作用をもたらすことを明らかにしました。

実験は20~39歳の健康な女性33名を対象として、約13. 2mgのβカロテンを含むニンジン100%飲料とミネラルウォーターの2グループに分類。それぞれ400ml を9週間摂取してもらいました。

その後1週間おきに4回、最後の9週目に1回肌の状態を測定しています。また、4週間目と9週間目には肌と排便に関するアンケートを実施しました。

肌の状態を測定した結果では、ミネラルウォーターのグループは摂取前後で変化なし、ニンジン100%飲料のグループでは摂取前よりも肌の水分量が増えたことがわかっています。

また、アンケート結果では肌の乾燥やうるおい、化粧のもちなどが良くなったという声があり、対象者が改善効果を実感していることが示されました。[※16]

研究のきっかけ(歴史・背景)

βカロテンは19世紀の初めに、ニンジンから天然のカロテノイドとして取り出されました。

カロテンの名前の由来は、ニンジン(carrot)からきています。

その後、1907年にβカロテンの分子式が明らかになったことで、構造が決定されました。また、この時代にβカロテンが体内でビタミンAとしてはたらく作用がわかっていますが、カロテンがビタミンAに変換されるメカニズムがわかったのは1960年代。ただ当時はどんな酵素がかかわっているかは不明でした。

1980年代からは分析・分離技術が進歩したことで研究が進み、高い抗酸化力からがんや動脈硬化、心臓病などさまざまな疾病の予防に役立つ効果が示唆されています。

現在でも効果やビタミン様物質としてのはたらきから、広く研究されている成分です。

専門家の見解(監修者のコメント)

βカロテンが体内でビタミンAとしてはたらくことは広く知られており、その効果についてまとめている専門家も多くいます。

管理栄養士の山﨑礼絵氏は、βカロテンについて以下のように述べています。

「β-カロテンは、抗酸化作用はもちろん、その他にもからだにとってよいはたらきをしてくれます。β-カロテンは、体内でビタミンAに変わることができるので、「プロビタミンA」とも言われています。特に優秀なのは、体内に必要な分だけ、ビタミンAに変わるので、摂りすぎによる悪影響の心配がないことです」

(オリーブオイルライフ「からだがよろこぶオリーブオイル② ~β-カロテン~」より引用)[※17]

βカロテンは体の活動に必要な量だけをビタミンAに変換します。そのため、ビタミンAの過剰摂取による副作用が起こることがありません。

つまり、通常のビタミンAよりも安全に摂取できる成分なのです。

また、山﨑氏は効率よくβカロテンを摂取する方法についてもコメント。

「β-カロテンは、油にとけやすい性質をもっています。そのため、油と一緒に摂ることで、吸収率がUPします。β-カロテンを多く含む、ニンジンなどの緑黄色野菜は、油をかけたり、油で炒めたりする食べ方がおススメです」

(オリーブオイルライフ「からだがよろこぶオリーブオイル② ~β-カロテン~」より引用)[※17]

βカロテンは油に溶けやすい(脂溶性)ため、炒め料理や焼き料理など、油と一緒に摂取すると吸収しやすくなるとのことです。

ただし、同じ油を多く使う料理でも揚げ物はNG。βカロテンが揚げ油に溶け出してしまいます。緑黄色野菜を摂るときは、できるだけ料理の仕方を工夫してみるといいかもしれません。

βカロテンの摂取に山﨑氏がおすすめしているのは、もともとβカロテンを含んでいるオリーブオイル。βカロテンが溶け出す心配がなく、効率的に摂取できるそうです。

βカロテンを多く含む食べ物

βカロテンは天然色素カロテノイドの仲間で、ニンジンやほうれん草、カボチャなど色の濃い緑黄色野菜に多く含まれています。[※15]

食品名 βカロテン βカロテン当量 レチノール当量
ニンジン(ゆで) 7500 8,600 720
ほうれん草(ゆで) 5400 5,400 450
しゅんぎく(ゆで) 5300 5,300 440
ニンジン(ジュース・缶詰) 3800 4,500 370
西洋カボチャ(ゆで) 3900 4,000 330
小松菜(ゆで) 3100 3,100 260
ブロッコリー(ゆで) 770 770 64
トマト(生) 540 540 45
スイートコーン(ゆで) 20 49 4

(単位:μg/100g)

※βカロテン当量とは…=β-カロテンと1/2量のα-カロテン、1/2量の クリプトキサンチンの合計

※RAE(レチノール当量)とは…動物性食品に含まれるレチノールの量とプロビタミンAとして作用するβカロテンの量の合計。レチノール(μg)+1/12β-カロテン当量(μg)で計算されます

相乗効果を発揮する成分

βカロテンは同じ抗酸化作用をもつビタミンCと組み合わせて摂ることで、美肌・アンチエイジングなどの効果が得られます。[※18][※19]

ただし、βカロテンが多く含まれるニンジンにはビタミンCの効果を低下させる酵素が入っています。[※18]そのため、酵素のはたらきを抑えるレモンと一緒に摂るのが良いでしょう。

また、βカロテンやビタミンC・Eを含むカボチャとビタミンB1が豊富なひよこ豆を一緒に食べると、抗酸化作用だけでなく、疲労回復の相乗効果も期待できます。[※18]

βカロテンの副作用

βカロテンを摂り過ぎると手のひらや足の裏が黄色くなる「柑皮症(かんぴしょう)」を引き起こします。[※5]

ただしβカロテンを含む食品の摂取を止めれば自然に治るため、心配する必要はありません。

βカロテンは体内で必要な分だけビタミンAになることから、ビタミンAの過剰摂取による副作用は起こらないと考えられています。

参照・引用サイトおよび文献

  1. 則岡孝子監修『新版 栄養成分の事典』(新星出版社 2008年12月発行 p36-39)
  2. 川島由起子監修『カラー図解 栄養学の基本がわかる事典』(西東社 2013年5月発行 p116-117)
  3. 大塚製薬「ビタミンA / βカロテン」
  4. グリコ「β(ベータ)-カロテン当量とは」
  5. 本田京子監修『図解でわかる!からだにいい食事と栄養の大辞典』(長岡書店 2006年9月発行 p102-104)
  6. 公益財団法人長寿科学振興財団「ビタミンAの働きと1日の摂取量|健康長寿ネット」
  7. 明治大学コミュニケーション研究所「βカロテン|疑似科学とされるものの科学性評定サイト」
  8. Dole Japan, Inc「かぼちゃのβ-カロテンで元気になる [コラム集]」
  9. カゴメ「ニンジンの抗アレルギー成分がβ‐カロテンであることを解明 ~継続的な摂取で花粉症の予防や長期的な治療効果に期待~」
  10. 糖尿病ネットワーク「糖尿病遺伝子にうち勝つ秘策は野菜のβ-カロテン | ニュース・資料室」
  11. 愛知県共済「ベーター(β)カロチンを知る | お茶成分と薬効」
  12. 【PDF】眞岡孝至「カロテノイドの多様な生理作用」(食品・臨床栄養,2, 2007)
  13. オムロンヘルスケア「ビタミンで効果的に生活習慣病を予防する | はじめよう!ヘルシーライフ」
  14. 【PDF】厚生労働省「日本人の食品摂取基準(2015年版)」
  15. 【PDF】食品安全委員会「ビタミンAの過剰摂取による影響(平成24年)」
  16. 伊藤園「保湿効果などにより、美肌に作用することを確認 にんじん100%飲料の摂取により、うるおいのある明るい肌へ! | 主な研究成果」
  17. オリーブオイルライフ「からだがよろこぶオリーブオイル② ~β-カロテン~」
  18. JA共済「カラフル食材で“さびにくい体”に! | Dr.コラム | 健康サポート情報局 げんきなカラダ」
  19. 日南市「マンゴーに含まれる栄養とその驚きの効能とは?」