アスタキサンチンとは自然界に広く存在する赤い色素成分で、カロテノイドの一種です。エビやカニ、シャケなどに含まれ、私たちは普段食品から摂取しています。アスタキサンチンにはさまざまな機能性が報告されています。ここではアスタキサンチンの効果効能・研究成果、摂取目安量などについて詳しく解説します。
M’sクリニック 伊藤 まゆ先生監修
アスタキサンチンとは、自然界に広く存在する天然の赤い色素成分です。エビやカニ、サケなどの鮮やかな赤い色の元になっているので、私たちに馴染みのある成分といえるでしょう。
この天然色素であるアスタキサンチンには強い「抗酸化力」があることで注目されており、現在アスタキサンチンは食品・美容・医学の分野で広く利用されています。
抗酸化力とは、活性酸素を消去して物質が酸化するのを抑制する力のことです。
たとえば中性脂肪などの脂質が活性酸素によって酸化してしまうと「過酸化脂質」となり、細胞内のDNAを傷つけたりします。
活性酸素には良い働きもありますが、悪い働きをする活性酸素は抗酸化物質によって速やかに消去したほうが、体への悪影響を減らすことができます。
この「抗酸化力」を測る指標として、4種類ある活性酸素のひとつである「一重項酸素」に対するアスタキサンチンの抗酸化力を調査したデータがあります。
アスタキサンチンがβカロテンの5倍、コエンザイムQ10の800倍、ビタミンCの6000倍の抗酸化力を持つことが報告されています。[※1]
また近年はアスタキサンチンに抗炎症作用があることも報告されています[※2]
体の「炎症」が老化や疾病の原因であることも解明されており、アスタキサンチンの抗炎症作用にも注目が集まっているのです。
アスタキサンチンには次のような効果・効能が報告されています。
■脳の血管を若々しく保つ
アスタキサンチンの抗酸化力は脳内でも過酸化脂質の悪影響を抑えることに役立ち、脳血栓の原因となるLDLコレステロールの酸化を防いでくれます。[※3]
■眼精疲労抑制効果
アスタキサンチンは網膜に到達し、目のピントを合わせる調整能力に良い作用をおよぼすことが明らかになっています。[※4]
■肩こりや首こりへの効果
また眼精疲労と関係の深い肩こりや首の疲れの低減にもつながるという報告もあります。 [※4]
■美肌(美白)効果
アスタキサンチンには、皮膚の老化を促進させるメラニンの生成を抑制する効果があります。[※5]
■疲労回復効果
アスタキサンチンは体内の糖をスムーズに代謝させることで、肉体疲労と精神疲労の両方を抑える働きが報告されています。[※6]
■筋肉痛の抑制効果
アスタキサンチンは脂肪や脂質をエネルギーにスムーズに変換するため、筋肉疲労を予防し運動による疲労物質を抑制する働きもあります。[※7]
■過活動膀胱対策
加齢に伴って生じる過活動膀胱の原因ははっきりしていませんが、アスタキサンチンの摂取で膀胱内での過剰な活性酸素を抑制することで症状が緩和するという報告があります。[※8]
■ペットの健康を守る効果
加齢に伴い慢性疾患を抱えたペット(犬)にアスタキサンチンを与えると酸化ダメージが低下し、見た目の改善や症状の緩和が期待されます。[※9]
アスタキサンチンがさまざまな効果効能を発揮する理由とそのメカニズムは、βカロテンやビタミンC、ビタミンEとは違ったかたちで細胞膜に取り込まれるからであることがわかっています。
細胞は細胞膜という二重の膜で覆われており、抗酸化物質によって細胞膜の内側で働くもの、外側で働くものに分かれてしまいます。
例えば水溶性ビタミンであるビタミンCは細胞膜の外で、脂溶性のビタミンであるビタミンEは細胞膜内でしか抗酸化力を発揮しません。
しかしアスタキサンチンは細胞膜を貫通することができ、細胞膜の中に存在し、内側からも外側からも抗酸化力を発揮することで、細胞全体を守ってくれるのです。
アスタキサンチンは細胞膜、そして細胞全体を活性酸素から守る優秀な物質といえるのです。 [※10]
アスタキサンチンのさまざまな効果を考えれば、あらゆる人に有効な成分であるといえます。
活性酸素の悪影響を消去する「抗酸化力」は体にもともと備わっていますが、その力は加齢とともに低下することがわかっています。[※11]
特に40代からはその低下が著しくなるため、40代からは意識的に抗酸化物質を摂取することが望ましいといえます。
アスタキサンチンは優れた抗酸化物質ですから、40代以降のエイジングサインが現れたすべての人に特におすすめの成分といえます。
また紫外線の気になる季節に、スポーツによる疲労回復対策に、PC作業などで目の疲れがきになる人にもおすすめです。
また興味深いところではペットの健康にも効果的であるという報告です。[※9]
ドックフードにアスタキサンチンを混ぜたものを食べさせると1か月程度でペットの運動量が増えたり、毛並みが良くなったり、便臭が改善されたりするという報告があるのです。
したがってペットの健康維持を意識している場合にもおすすめできます。
アスタキサンチンの摂取量の目安や上限摂取量は特に定められていませんが、1日に6〜12㎎というのが一般的な説です。[※12]
12㎎摂取できればその効果効能を体感しやすいとされますが、この量を食事から摂取するといくら小さじ60杯分ともされますのであまり現実的ではありませんから、サプリメントを活用するのも一つです。
紅鮭の切り身1〜2切れ程度でも半分程度(6mg)のアスタキサンチンは摂取できるとされます。アスタキサンチンを多く含む魚介類を毎日意識して少しずつ食べると良いでしょう。
アスタキサンチンの効果効能については多数のエビデンスが報告されています。
■眼精疲労に関するエビデンス
富山医科薬科大学眼科の研究によれば、アスタキサンチンを5mg、1か月摂取してもらった試験では、「ピンと調整力」「肩こりや目の奥の痛み」が改善したという報告があります。
また藤田保健衛生大学眼科による同様の試験では、アスタキサンチンの摂取量が多いほど、調整力にかかかる時間が短いことが報告されています。
これらの報告から、アスタキサンチンの摂取量に比例し、眼精疲労が改善されることが示唆されています。[※4]
■美肌作用に対するエビデンス
アスタキサンチンを塗る、あるいは経口摂取することで(1日2mg、2週間と4週間で測定)、肌の水分量
が高まるという報告もされています。
アスタキサンチンは塗ることでも水分量が上昇することが報告されているため、基礎化粧品としても人気が高いですが、インナーケアとして摂取するのもおすすめです。 [※13]
■腎臓疾患に対するエビデンス
3か月間薬で症状の改善が見られなかった過活動膀胱の人31人を対象に、医薬品(抗コリン剤)にアスタキサンチンとビタミンCとトコトリエノールを配合したサプリメントを加えて摂取させました。
その結果、頻尿、夜間頻尿、尿勢低下などの症状が有意に低下したという報告があります。まだまだ研究中の段階ですが、今後の研究報告が待たれるところです。[※8]
アスタキサンチンは、1938年ドイツの生化学者リヒャルト・クーン博士によって最初に発見されました。
クーン博士はノーベル化学賞も受賞している生化学者です。この最初の発見は、ロブスターの甲羅と卵から赤い色素を抽出したことによるものでした。
同じ頃、鮭の筋肉からも赤い色素が発見され、これもアスタキサンチンと同じ構造を持っていることがわかりました。
こうしてアスタキサンチンが藻類や魚介類に多く分布していることが次々と解明されていったのです。[※14]
アスタキサンチンの機能性研究は、80年代に抗酸化活性が見つかったことで加速度的に進み、1990年台にはヘマトコッカス藻を大量培養することによって、天然由来のアスタキサンチンが大量に生産されるようになりました。
その後日本でも有名な化粧品ブランドが生まれ、サプリメントなど多岐にわたって利用されるようになったのです。[※15]
パソコン作業や老視の放置などによる目の調節異常などについて詳しく、眼精疲労の原因を特定する調節機能解析装置の開発に携わる医学博士、梶田眼科(東京都港区)院長・梶田雅義医師。
梶田医師は日経GOODAYのインタビュー「疲れ目、眼精疲労に赤い食材 アスタキサンチン」で以下のように述べています。
「アスタキサンチンは、強い抗酸化作用で目の新陳代謝を良好にし、血流を促す働きがあります。それにより目の疲労が軽減され、ピント調節機能もスムーズに。VDT作業(パソコンなどの画面を見て行う仕事のこと)をする人だけでなく、老眼で目が疲れやすい人にも向いています」
アスタキサンチンの効能は予防よりも、眼精疲労からの回復力を向上させることにあると、梶田医師は説明しています。
「朝に飲んでおくと、会社へ出勤して仕事にとりかかるころから効き始め、眼精疲労の回復を早めます。『目が疲れた』と感じてからとるのでは遅いのです」(日経GOODAY 「疲れ目、眼精疲労に赤い食材 アスタキサンチン」より引用抜粋)[※16]
と、アスタキサンチンの効果的な摂り方についても教えてくれています。
アスタキサンチンは特に魚類や甲殻類に多く含まれていて、サケ、マス、いくら、筋子、エビなどに特に豊富に含まれています。
またアスタキサンチンは脂溶性であるため、油と一緒に摂取することで吸収率が高まります。先に挙げたような食材をソテーやドレッシングで食べると良いでしょう。
また、摂取目安量を意識するのであればサプリメントといった方法も挙げられます。目の疲れを感じやすい、デスクワーカーの12%ほどがサプリメントや薬によって対策をしているというデータもありました。[※17]
さらに豊富なエビデンスによりアスタキサンチンは機能性表示食品として、現在5つの健康表示が行われています。
「目の機能をサポートする」「肌の潤いをサポートする」「目の疲労感を軽減する」「睡眠の質を向上する」「疲労感を軽減する」といったものです。
商品の目的によりアスタキサンチン以外に配合されている成分が異なりますが、目的に応じた商品選びをすると良いでしょう。
アスタキサンチンの含有量も目的によって異なっていますが、多いもので12 mg程度になっています。
アスタキサンチンは脂溶性の成分中でも、ビタミンEとの相性が抜群です。ビタミンEは「スーパービタミン(トコトリエノール)」の別名を持ちますが、ビタミンEだけでも優れた抗酸化作用を示します。
ところがアスタキサンチンとビタミンEを一緒に摂取することで、活性酸素のひとつである一重項酸素の発生を95%まで抑えられるという報告もあるのです。[※18]
一重項酸素は紫外線を浴びると大量に発生してしまうため、美肌の大敵であることが知られます。アスタキサンチンが美容成分として知られるのもこの辺りの背景があるからです。
アスタキサンチンの副作用は今のところほとんど報告がありません。
通常脂溶性の物質は過剰症を起こしやすいとされますが、アスタキサンチンは現時点では長期摂取しても体内蓄積が起こらないとされています。
ひとつ注意点があるとすれば、アスタキサンチンはカロテノイド類であるため、アスタキサンチン以外のカロテノイド類を同時に摂取すると、アスタキサンチンの吸収が低下する可能性があるということです。
カロテノイドを多く含む食品は例えばにんじんやトマトなどです。さまざまなカロテノイドを同時に大量摂取するのは避けるべきとされています。