ビタミン、ミネラル、食物繊維を豊富に含み、緑黄色野菜の優等生として知られる明日葉。近年では、特有の機能成分「カルコン」にさまざまな効能があることで注目を浴びています。高血圧や高血糖を改善、内臓脂肪の軽減、動脈硬化の予防、抗がん作用など、研究の結果、驚くべき効果が次々と明らかにされてきた明日葉の知られざるパワーについて詳しく紹介します。
薬剤師 飯田 耕平
2007年 日本薬科大学医療薬学科卒業。アロマアーチスト。 東京都北区を中心に、より良い地域医療を目指して日々奔走しております。 医薬品や漢方、栄養相談は勿論のこと、メディカルアロマを通じて、皆様の疾病予防、健康増進、セルフメディケーションのお手伝いが出来たらと思っています。
明日葉はセリ科シシウド属の多年草で、八丈島、大島などの伊豆諸島や、房総半島、伊豆半島、紀伊半島など暖かい太平洋沿岸部に多く自生しています。名前のとおり、「葉を摘んでも明日には新しい葉が生えてくる」といわれるほど生命力旺盛な植物で、2000年の三宅島噴火の際も、火山灰の中から最初に芽を出したのが明日葉だったという話が残っています。[※1][※2]
ちなみに流通している明日葉の一番の生産地は伊豆諸島ですから、東京都ということになります。
原産は八丈島といわれ、茎や葉柄が緑色で背丈が2mにのびる八丈島系(青茎)と、茎や葉柄が赤みを帯び背丈が1mほどにしかならない大島系(赤茎)の2種類があります。主に若芽を摘んで食用とします。
明日葉は古くから滋養強壮によいとされ、生薬などに利用されてきました。近年ではミネラルやビタミンが豊富なことから健康野菜として人気が高く、青汁やサプリメントなどさまざまな形の加工食品が市場に出回っています。
各種ビタミンやミネラル、食物繊維などをバランスよく含んでいるため、さまざまな効果・効能が期待できます。最近の研究の結果、ポリフェノールの一種である「カルコン」という、強い抗酸化作用をもつ成分が多く含まれていることがわかり、血栓防止や動脈硬化・がん予防に有効な植物として注目を集めています。[※3]
明日葉には次のような効果・効能が報告されています。
■整腸効果・便秘の解消
食物繊維を豊富に含むため整腸作用があります。可食部100gあたりの食物繊維含有量は5.6gで、ゴボウ(5.7g)とほぼ同等です。[※4]
■美肌効果
ビタミンCやE、β-カロテンといった美容に役立つビタミン類がたくさん含まれています。ビタミンCにはコラーゲンの生成を促進し、シワを予防・改善する作用が、β-カロテンは体内でビタミンAに変わり、肌荒れやメラニン色素の発生を抑制する作用があります。いずれも高い抗酸化作用をもち、活性酸素から肌を守ります。[※5]
■高血圧の予防
ナトリウムの排出を促すカリウムを豊富に含み、高血圧を予防します。[※3]
また、明日葉に含まれるカルコンには、次のような効果・効能があることが報告されています。
明日葉特有の機能性成分として脚光を浴びているカルコンについて、その作用機序が少しずつ明らかになってきました。その鍵を握るのがアディポネクチンという物質です。
アディポネクチンは脂肪細胞から分泌されるホルモンの一種で、1996年、大阪大学の松沢教授らのグループによって発見されました。「血糖値を下げる」「血圧を下げる」「脂肪の燃焼を高める」「動脈硬化の進行を予防する」など、血液や血管、内臓の状態を正常に保つ役目を担っています。
近年、研究によって、カルコンにはこのアディポネクチンの産生を促進させる作用があることがわかってきました。加齢や生活習慣の乱れでアディポネクチンが減ってしまうと、高血圧、肥満、高血糖といった症状=メタボリックシンドロームが起こります。カルコンは、こうしたメタボリックシンドロームの諸症状を改善してくれるのです。[※6]
カルコンはこのほか、神経細胞の分化促進や維持、脳神経の損傷修復に関わる神経成長因子(NGF:Nerve growth factor)や、骨を生成する骨芽細胞を増殖させる作用をもつことが認められており、アルツハイマー型認知症や神経障害の予防や治療、骨粗しょう症の改善に高い効果が期待されています。[※7][※8]
明日葉は栄養豊富な緑黄色野菜です。β-カロテンはトマトの約10倍、ビタミンEはニンジンの約5倍、ビタミンCはキャベツやオレンジ同等[※4]と、必須ビタミンをバランスよく、たっぷりと含んでいます。外食が多く、野菜が不足がちな方におすすめしたい食材です。
食物繊維も豊富(レタスの約5倍)[※4]です。腸内の善玉菌を増やしてくれるので、便秘でお悩みの方や便通が乱れがちな方の助けにもなるでしょう。肌荒れやくすみの気になる方にうれしい美肌効果もあります。
カルコンには抗メタボリックシンドローム効果があります。高血圧や糖尿病、動脈硬化など生活習慣病を予防したい方は食事のなかに取り入れてみてはいかがでしょうか。
野菜としての摂取量の目安や上限摂取量は特に定められていませんが、β-カロテンとビタミンCは明日葉200gで1日の必要量をほぼカバーできてしまいます。それほど大量に摂取する必要はないでしょう。
明日葉は健康食品として最近は青汁に加工されることが多いようです。エーザイ株式会社の運営する「くすりの博物館」によると、青汁は1日100ccを限度に服用するのがよいとされています。[※9]
粉末の場合、摂取目安量や上限摂取量はどのくらいなのでしょうか。2012年に発表された明日葉青汁の安全性評価では、次のような実験結果が報告されています。
明日葉青汁(粉末)の標準的な摂取目安量は3~6gといわれています。一般成人25人に対して、その5~10倍に相当する31.5gの粉末青汁を4週間摂取してもらったところ、理学的検査、血液検査、尿検査とも臨床上問題となる変動は見られませんでした。[※10]このことから、明日葉青汁は過剰摂取しても安全性が高いことがわかります。
明日葉に含まれるカルコンに糖尿病の症状を緩和する効果があることは、タカラバイオ株式会社がその根拠となる実験データを発表しています。
境界域糖尿病者と呼ばれる、血糖値がやや高め(空腹時血糖値100~141mg/dL)の被験者31人に、明日葉粉末3g、6g、プラセボ粉末を6週間毎日摂取してもらったところ、血糖値、HbA1Cともに、明日葉粉末の摂取量に応じた数値の低下が見られ、明日葉粉末6gを摂取した被験者は、6週間後の血糖値が平均6.4mg/dL、HbA1C値は平均0.31%低下していることがわかりました。[※11]
また、2012年には日本補完代替医療学会誌上では、明日葉粉末青汁(カルコン)がメタボリックシンドローム該当者や予備軍に対して有効であるという実験結果も報告されています。
9名の被験者に明日葉粉末青汁を1日あたり6.2g(カルコンにして12.3mg)を8週間摂取してもらい、腹部脂肪面積、身体測定、血液および尿検査を行ったところ、内臓脂肪面積、体重、BMI、体脂肪率すべてが減少していることがわかりました。また、血液および尿検査でも問題となる症状は見つからず、有害事象ないことから、「明日葉はメタボリックシンドロームの予防に有効な、安全な食品であることが示唆された」としています。[※12]
明日葉は古くから、野菜として常食されるほか、生薬としても活用されてきました。『八丈筆記』(寛政9年・1797)には、伊豆諸島の人々が明日葉を栄養補給や健康増進に寄与する「霊草」として、四季を通じ食用・薬用としていたことが書かれており、島の人々の生活に欠かせない存在であったことがうかがえます。
中国では明の時代に薬草を解説した『本草綱目』に明日葉が登場しており、その時代にはすでに海を渡って中国に上陸していたようです。[※13] 一説によると、秦の始皇帝が徐福に探させた不老不死の仙薬が明日葉だったともいわれています。[※2]
近年では1975年以降、明日葉研究の第一人者として知られる大阪薬理大学名誉教授の馬場きみ江先生が行った、明日葉の成分やその効果に関する研究を皮切りに、明日葉に含まれるカルコンのもつ機能性が注目されるようになりました。
血栓予防、血圧上昇抑制、高血糖・高血圧の改善など、生活習慣病の予防にカルコンが有効であることは新聞や雑誌などでも取り上げられるようになり、機能性食品としての需要も増加しています。
抗がん作用、抗潰瘍作用などに関する研究も進み、多くの大学や医薬品メーカーが研究論文を発表。次々に特許を申請しています。現在、作用機序の解明や機能性食品の開発を目指して臨床試験が進められているところです。[※14]
大阪薬理大学、東京都島しょ農林水産総合センター大島事業所、筑波大学の発表した共同研究論文では、次のような結言がされています。
“アシタバに対する評価は、近年カルコン類の研究が進みその機能性が明らかになるにつれて、徐々に高まりをみせている。中でも健康食品を手がける企業では、「カルコン」が宣伝効果を高める強力なキーワードになりつつあることから強い関心を寄せ、自社の栽培圃場を拡大するところも出てきている。また、インターネットでアシタバを検索すると多くの会社がアシタバを原料にした製品を紹介しており、今後、アシタバは更に需要の伸びが予想される健康食品の素材の一つと思われる”[※15]
生活習慣病の予防や抗がん作用など、新たな効果をもつ機能性食品が今後も増えていくでしょう。需要が伸びるなかでさまざまな実験データが蓄積され、将来的には医薬品の開発につながるかもしれません。
明日葉は、葉にほのかな苦み、茎に甘みを感じる複雑な味わいが魅力です。天ぷらにしたり、軽く湯通ししてから調理したりすることで食べやすくなります。β-カロテンやビタミンEなど脂溶性ビタミンを豊富に含むので、油と一緒に調理することで吸収率が高まります。
管理栄養士の平野美由紀さんによると、自分で青汁やスムージーなどを作って飲む場合、リンゴとミックスするのがおすすめだそうです。リンゴには明日葉特有の苦みや香りをマスキングする効果があり、整腸作用もあるというお話です。[※16] 調理の仕方や組み合わせる食材を工夫して、栄養満点な明日葉を上手に摂取したいですね。
カルコンにはアディポネクチンという抗メタボリックシンドローム作用をもつホルモンの分泌を促す効果があります。研究の結果、この作用を大豆イソフラボンの一種であるダイゼインがさらに増強することがわかりました。[※6]
ダイゼインはプエラリアやクズなどクズ属の植物に多く含まれるほか、大豆や豆腐、大豆加工食品にも含まれています。明日葉を食べるときには、大豆や豆腐などを一緒に食事に取り入れてみましょう。
明日葉の安全性について、さまざまな大学や企業が臨床試験を行っていますが、今まで健康被害などの副作用は報告されていません。
ただし、ビタミンKを非常に多く含んでいるため、抗血液凝固薬のワルファリンを服用している場合は注意が必要です。競合阻害といって、ビタミンKがワルファリンの作用を妨げるため、薬の効果がなくなってしまうのです。