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アラキドン酸の効果とその作用

赤ちゃんの脳の発達に大切な成分であり、粉ミルクにも配合されるアラキドン酸。認知機能の向上や体調を整える効果なども期待されています。不飽和脂肪酸のオメガ6系に分類され、食事からの摂取が必要な必須脂肪酸です。ただし現代の日本人は摂り過ぎの傾向があることが懸念されています。

アラキドン酸とはどのような成分か

アラキドン酸は、オメガ6系に分類される不飽和脂肪酸の一種で、食事から摂取する必要がある必須脂肪酸です。同じオメガ6系のリノール酸の代謝によっても生合成されます。[※1]

そもそも不飽和脂肪酸とは、一部に二重結合を含む脂肪酸のことで、二重結合が1カ所の一価不飽和脂肪酸と、2カ所以上の多価不飽和脂肪酸があります。

多価不飽和脂肪酸の中でも二重結合の位置によって、n-6系多加不飽和脂肪酸(オメガ6脂肪酸・n-6系脂肪酸・ω-6脂肪酸)、オメガ9系脂肪酸、オメガ3系脂肪酸があります。[※2]

アラキドン酸は細胞膜の材料のひとつであり、体内では脳や皮膚、血液などに存在します。とくに脳では記憶との関連が深いとされる海馬を中心に多く存在するため、脳への作用が注目されています。

乳児の脳の発育にも欠かせない成分で、母乳にも含まれていることがわかっています。[※3]そのため日本でも、アラキドン酸が配合された粉ミルクが市販されています。

アラキドン酸の効果・効能

■体調を整え、免疫力を向上させる

アラキドン酸は「プロスタグランジン」の産生に関与するため、免疫力機能を調整する効果が期待できます。

プロスタグランジンは生体調整ホルモンとも言われ、血圧の調整や気管支の筋収縮、免疫系統の調整などの役割を担います。

アラキドン酸は細胞膜のリン脂質に結合して存在していますが、ホスホリパーゼA2という酵素の働きで細胞膜から切り出されます。その切り出されたアラキドン酸の代謝物のひとつがプロスタグランジンです。

アラキドン酸がプロスタグランジンを作る代謝経路は、「アラキドン酸カスケード」と呼ばれています。プロスタグランジンの作用により、高血圧の予防や、コレステロール値を下げる効果なども期待されています。

■脳への効果

アラキドン酸は脳の海馬を中心に多く存在し、記憶力を向上させ、学習能力を高める効果が期待されます。アラキドン酸は乳児の脳の発達にも欠かせない成分で、知能や運動機能の発育にも関与しているとされています。

また、精神疾患や認知症の予防効果なども研究されています。[※4][※3]

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるのか

アラキドン酸はニューロンとニューロンをつなぐシナプスの形成に関与していることがわかっています。

目や耳から入った情報は、脳の海馬というところに集められ、そこから広がる神経細胞を通り、電気信号を発して情報が伝達されていきます。神経細胞間で電気信号が伝わる接続部がシナプスです。

シナプスは、電気信号を化学物質の信号に変換し、次の神経細胞に情報を伝えています。このシナプスの伝達の活性化が、学習能力や記憶力の向上につながると考えられています。[※5]

2008年に発表された研究[※6]で、このシナプスの形成にアラキドン酸が関与していることが、独立行政法人理化学研究所・脳科学総合研究センター・細胞機能探索技術開発チームの研究グループにより明らかにされました。

神経細胞に栄養を補給するグリア細胞の一種のアストロサイトと神経細胞が接着する際の刺激で、神経細胞膜のアラキドン酸が細胞内に切り出されます。遊離したアラキドン酸は、プロテインキナーゼCという酵素と結びついて活性することで、シナプス形成が促進されるというのです。

アラキドン酸は多方面から脳に作用することが研究されていますが、今回の発見はアラキドン酸の作用を解明する一端を担うものとして注目されています。

どのような人が摂るべきか、使うべきか

アラキドン酸は細胞膜の構成に必要不可欠であり、すべての人に必要な脂肪酸です。食品に含まれているほか、リノール酸から体内で合成されますので、普段の食生活の中でそれほど意識する必要はありません。

ただし1歳以下の乳児では、アラキドン酸を作り出す代謝機能がじゅうぶんではありません。そのため、母乳や粉ミルクから摂取することが必要になります。

さらに高齢者の認知症対策にも効果が期待されている成分です。ただしアラキドン酸は食事から摂取する量を増やすことで、コレステロール値が高くなるリスクもあるため、高齢者の場合は注意が必要です。

コレステロール値などが気になる場合は、アラキドン酸を低リスクで効率よく摂取する方法は、やはりサプリメントから摂取することではないでしょうか。[※5]

アラキドン酸の摂取目安量・上限摂取量

アラキドン酸は細胞の構成に欠かせない必須脂肪酸ですが、健康維持のために必要な量はそれほど多くないと言われています。

アラキドン酸自体の摂取目安量や上限量は定められていませんが、アラキドン酸を含む、オメガ6系脂肪酸の食事摂取基準の目安量(注1)厚生労働省によって発表されています。[※1]

それによると、目安量は年齢により異なり、30~69歳までの成人男性で1日10g、同じく女性で1日8gとされています。日本人ではオメガ6系脂肪酸の欠乏が原因とみられる皮膚炎などの報告は今のところありません。[※7]

脳の健康や生命の維持に大切なアラキドン酸ですが、近年の欧米型と言われる食生活の変化もあり、若い人や男性では摂り過ぎの傾向があると言われています。

認知症対策をはじめとした、さまざまな健康への効果はまだ研究段階であり、過度な期待から過剰に摂取することはおすすめできません。

サプリメントなどで利用する場合も、表示されている用法容量を必ず守りましょう。

(注1)目安量とは、じゅうぶんな科学的根拠が得られず、推定平均必要量や推奨量が設定できない場合に定める数値。一定の栄養状態を維持するのにじゅうぶんな量で、目安量以上を摂取している場合は不足のリスクはほとんどないとされる[※8]

アラキドン酸のエビデンス(科学的根拠)

杏林大学の古賀良彦教授の研究チームは、アラキドン酸の認知機能への作用について、以下の実験を行っています。

60~70歳の男性20人に、1日240mgのアラキドン酸を摂取してもらい、摂取前の脳波と比較を行いました。その結果、アラキドン酸を摂取したあとでは、情報処理にかかるスピードと、集中力の向上が認められたということです。[※3]

また、精神疾患病への効果を示す以下のエビデンスがあります。

東北大学大学院医学系研究科の大隅典子教授らは、ラットを使った実験から、アラキドン酸が精神疾患病の予防に役立つ可能性を見出しました。[※4]

野生型のラットを生後4週までアラキドン酸を含む餌を与えて飼育した後で、神経新生(注1)の様子を解析したところ、対象群よりも約30%神経新生が向上することが認められました。

さらに、脳の発達に重要な遺伝子が変異したラットにアラキドン酸を含む餌を与えた結果でも、神経新生は向上し、精神疾患様行動に改善がみられたということです。

ただし、ラットのモデルで精神疾患の症状をすべてモデル化できるものではなく、精神疾患病の治療や予防へ応用するための、今度のさらなる研究が待たれます。

(注1)神経新生とは、神経細胞のもととなる神経幹細胞から、新たな神経細胞が分化すること。これまで胎生期から幼年期にみられる現象とされてきたが、近年の研究で、脳神経新生が大人になってからも継続していることが明らかにされている[※9]

研究のきっかけ(歴史・背景)

脂肪酸の研究は、1800年代に入ってから世界的に広まったと言われています。アラキドン酸を体内でつくり出すリノール酸が発見されたのが1844年。脂質分析の技術が進歩していく中、アラキドン酸は、1909年に発見されました。

20世紀初めに、不飽和脂肪酸にコレステロール値を下げる効果が認められ、脂肪酸の研究は進みました。[※10]

高齢化社会となり、健康寿命を伸ばすことが大きな課題とされる今、認知症の予防や免疫力の向上効果など、アラキドン酸の研究に対する期待も高まっています。

専門家の見解(監修者のコメント)

女子栄養大学・基礎栄養学研究室助教授の川端輝江氏は、2004年と2005年に食事調査を実施し、アラキドン酸の食事からの摂取と、その取り込みに関する研究を行いました。[※11]

平均年齢20歳の若い女性30名と、平均年齢67歳の高年男性22名の2グループの28日間の食事内容と記録から、脂肪酸やほかの栄養素を算出し、食事調査終了時に採血検査を行い、赤血球の細胞膜の脂肪酸組成を分析するというものです。

その結果、アラキドン酸は加齢により体内でのレベルが低下することが判明。さらに注目したいのが、高年男性のほうが食事のアラキドン酸摂取量が多いのにも関わらず、若い女性のほうが細胞膜内のアラキドン酸の量が多かったという点です。

この実験から、川端氏は以下のように見解を示しています。

「実験でアラキドン酸、DHA、EPAなどの必須脂肪酸は摂取すれば摂取しただけ、それぞれの脂肪酸の体内レベルに反映されるわけではないという興味ある事実が示された。今後は年齢、性別、そして自身の食生活に応じた必須脂肪酸の理想的な摂り方を考えていく必要がある」(日本ブレイン協会「No.10 加齢で減少する体内のアラキドン酸」[※11]より引用)

脂質とひと言でいっても、飽和脂肪酸、オメガ3系脂肪酸、オメガ6系脂肪酸などのさまざまなグループに分けられ、それぞれが独自の機能性を持っています。

乳児の脳の健全な発育や、高齢者の認知機能を高めるアラキドン酸の効果については、ヒトでの臨床試験データなどでも示されています。

と同時に一般的にはアラキドン酸欠乏による健康被害の報告はなく、むしろ過剰摂取による病気のリスクのほうが懸念されます。

アラキドン酸をはじめとした脂肪酸に関しては、それぞれの機能性を正しく理解し、個人個人が必要に応じて自分の健康に役立てていくことが大切です。

アラキドン酸を多く含む食べ物

アラキドン酸は卵、豚レバー、サバ、ウニ、ブリ、豚モモ肉などに多く含まれています。また、アラキドン酸はリノール酸の代謝物でもあるため、リノール酸が多く含まれる大豆油、くるみ、菜種油、アマニ油などを摂取することでもアラキドン酸を得ることができます。

相乗効果を発揮する成分

脳の健康効果が知られる脂肪酸は、アラキドン酸のほかにもDHA、EPAが有名です。DHAはまぐろ、さば、さんま、ぶりに、EPAはさば、きんき、まぐろ、マイワシなどの魚類に豊富に含まれています。[※12]

とくに、アラキドン酸とDHAは、脳神経に大きな役割があると考えられています。

生後5日以内の赤ちゃん56人を「アラキドン酸とDHAを配合した粉ミルクを与える19人」「DHAが配合された粉ミルクを与える17人」「どちらも配合しない粉ミルクを与える20人」という3つのグループに分けました。

生後17週目までそれぞれ粉ミルクを与えて、18か月目に知能や運動量を比較したところ、DHAだけでなく、アラキドン酸も配合したミルクを与えたグループに、記憶力や言語能力といった精神発達指数が高いという結果が認められました。[※3]

国際的な政府間機関であるコーデックス委員会においても、粉ミルクにDHAを配合する場合、同量以上のアラキドン酸を配合することが推奨されています。

アラキドン酸に副作用はあるのか

アラキドン酸にはガン死亡率との関連が示唆されています。

福岡県の久山町で、40歳以上の住民3098人に対し、2002年~2012年の期間で大規模な追跡調査が行われました。

血清中のEPAが低く、アラキドン酸が高いという対比が大きいほど、ガンの死亡率を増加させる可能性が認められたのです。つまり、ガンの死亡リスクを減らすためにはEPAを多く、アラキドン酸を控えめに摂ることが効果的だとする結果です。[※13]

また、アラキドン酸は細胞の構成に欠かせない大切な成分ですが、摂り過ぎることで逆にコレステロールの量が増加して、病気のリスクを高めてしまう存在でもあります。

現在の日本人にはもともと過剰摂取気味であるアラキドン酸を、さらにサプリメントなどからも補給することに、否定的な意見もあります。[※14]とくに普段から脂質の多い食事を摂っているという人は、過剰摂取にならないように注意しましょう。