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αリノレン酸の効果とその作用

オメガ3脂肪酸に分類されるαリノレン酸は、人間の体内で合成することのできない必須脂肪酸です。体内ではDHAやEPAに変換され、生活習慣病のリスクを減らし、アレルギーを抑制する効果なども知られています。アマニ油やエゴマ油に多く含まれますが、熱に弱く酸化しやすいという特徴もあります。

αリノレン酸とはどのような成分か

αリノレン酸とは脂質を構成する主要な脂肪酸で、ヒトの体内では合成できず、食品から摂らなければならない必須脂肪酸です。

体内では細胞膜のリン脂質の構成成分にもなっており、重要な役割を担っています。

αリノレン酸は炭素結合を2つ以上持つ多価不飽和脂肪酸のうち「オメガ3系脂肪酸」に分類されます。

オメガとはギリシャ語で「アルファベットの最後の文字」を意味し、炭素の二重結合の始まりが端から数えて3番目で始まっていることからこの名前で呼ばれています。[※1]

オメガ3系脂肪酸にはほかに青魚などに含まれるEPAとDHAがありますが、αリノレン酸は体内で代謝されるとEPA、DHAに変換されます。

αリノレン酸はアマニ油やエゴマ油などに多く含まれます。油でありながら、生活習慣病を予防し、アレルギーを抑制する効果などが知られるオメガ3系脂肪酸は、「からだにいい油」として近年注目されています。

一方で、熱に弱いなどの弱点もあるため、摂取するさいや、保存の仕方には注意が必要な成分でもあります。

αリノレン酸の効果・効能

αリノレン酸はからだの細胞膜の構成成分であるほかに、以下のようなさまざまな効果・効能が知られています。

■血液サラサラ効果

αリノレン酸は体内でEPAに変換されます。EPAはしなやかな血管を作り、血栓を予防する効果が期待されている成分です。血流を促すことで動脈硬化を予防し、生活習慣病のリスクを抑えてくれます。

■アレルギーを抑制する効果

αリノレン酸を積極的に摂取することで、アレルギーを抑制する効果が期待されます。

アレルギーの原因のひとつとされているのが、オメガ6系脂肪酸であるリノール酸の過剰摂取です。

αリノレン酸とリノール酸は互いに競合的な存在です。αリノレン酸にはリノール酸の働きを阻害して、アレルギーを抑制する働きがあります。[※2]

■脳の老化防止効果

αリノレン酸は、脳の老化を予防する効果が期待されます。

αリノレン酸はEPAに変換されたあと、DHAにも変換されます。DHAは脳の認知機能を高める効果があるとされ、アルツハイマー型認知症の予防効果などが研究されている成分です。[※3]

■うつ症状の改善効果

αリノレン酸は体内でEPAやDHAに変換されますが、EPAとDHAの摂取により、うつ病の症状が改善するという研究結果が発表されています。[※3]

■高血圧を抑制する効果

αリノレン酸には、高血圧を予防する可能性が示唆されています。[※4]

高血圧の状態が続くと、動脈硬化を悪化させ、脳卒中や心疾患などの重大な病気のリスクを高めます。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるか

αリノレン酸には体内の細胞膜の構成成分として重要な役割を担いますが、さらに、以下の2つの作用により、さまざまな効果効能が得られると考えられます。

■EPA・DHAへの変換

αリノレン酸は肝臓で吸収されると、まずEPAに変化し、次にDHAに変換されます。αリノレン酸からEPAへの変換率は今のところ明らかにはされていませんが、だいたい10%ほどだとみられています。[※5]

日本製粉(株)は、αリノレン酸約2g相当であるローストアマニ粉末を摂取することで、体内のEPAとDHAの濃度が上昇するとの試験データを公表しています。[※6]

EPA・DHAは血流を促し、血液をサラサラにするなどの健康への効果が知られている成分です。

血流がスムーズになるとからだのすみずみまで酸素や栄養がいきわたり、代謝が促進され、疲労回復や生活習慣病の予防につながります。脳の血流がよくなると、脳細胞や神経のはたらきが高まり、記憶力や学習能力を向上させます。

■リノレン酸との競合

αリノレン酸の重要な働きに、リノール酸との競合があります。

リノール酸はオメガ6系脂肪酸で、αリノレン酸とおなじ必須脂肪酸の一種です。どちらもからだに必要な脂肪酸ですが、αリノレン酸とリノール酸は代謝の過程で同じ酵素を利用するため、互いに競合し、どちらかが多くなるともう片方の作用が抑えられます。[※5][※7]

たとえば、αリノレン酸は血流を促しますが、リノール酸は血液を凝固させます。細胞に栄養を届けるためには血流を促す必要がありますが、皮膚に傷がついたときには出血を止めるために血液凝固反応が進む必要があります。

また、リノール酸は過剰摂取によりアレルギーを悪化させる恐れがありますが、αリノレン酸はリノール酸の働きを阻害し、アレルギーを予防・抑制する作用があります。

このように、αリノレン酸とリノール酸の作用は互いに拮抗していて、健康なからだを維持するためには、この2つの摂取バランスが非常に大切になります。

どのような人が摂るべきか、使うべきか

αリノレン酸は、血管の健康維持や老化の予防に効果的な成分です。

とくに中年以降の世代は細胞の老化が進み、生活習慣病のリスクも高まります。加齢にともなう不調を感じている人、不規則な生活や乱れた食生活、喫煙習慣のある人やストレスを感じている人などは、とくに積極的に摂取することをおすすめします。

アレルギーを抑制する効果も知られているため、花粉症やアトピー性皮膚炎が気になる人にもおすすめです。

αリノレン酸の摂取目安量・上限摂取量

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準2015年」[※8]によると、

オメガ3脂肪酸の摂取目安量は年齢や性別により異なりますが、成人の場合、1日1.6g~2.4g

と発表されています。

αリノレン酸はリノール酸との摂取バランスが重要です。リノール酸を含むオメガ6脂肪酸の摂取目安量は、おなじく成人で1日7g~11gとなっています。

目安量での比率を計算すると、オメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸のバランスは、だいたい5~4対1となりますが、専門家によっては2対1くらいまで近づけることが望ましいという意見もあります。[※9]

かつての魚や野菜を中心とした日本の食卓には、αリノレン酸が豊富に含まれていました。しかし、現代の日本人の食生活では、αリノレン酸の摂取量の減少と、リノール酸の過剰摂取によるバランスの偏りが問題視されています。

リノール酸は調理用オイルとして用いられるサラダ油やスナック菓子や菓子パンなどの加工品に豊富に含まれています。

魚離れが進み、欧米型の肉を中心とした食生活が増えてきたことも、αリノレン酸の摂取量の減少とリノール酸の過剰摂取に拍車をかけています。

αリノレン酸のエビデンス(科学的根拠)

和洋女子大学の行った研究によると、αリノレン酸を豊富に含むシソ油を摂取することで、TG(中性脂質)の低下、リポタンパク改善、血小板凝集抑制作用などが確認されたということです。[※10]

アトピー性皮膚炎に対しては、名古屋大学医療技術短期大学部の鳥居新平教授らが行った実験で、αリノレン酸を含むエゴマ油と魚油から作られた食品を4週間投与したところ、皮膚の状態が改善したとの結果が得られています。[※11]

研究のきっかけ(歴史・背景)

リノレン酸にはα、β、γなどいくつか種類がありますが、発見された順番で名前が付けられています。αリノレン酸はリノレン酸のなかでも1887年に最初に発見されました。[※12]

一方、オメガ3脂肪酸の機能性についての研究は、イヌイット民族の食事がきっかけとなり広まったという歴史があります。

1960~70年代にかけて、イヌイット民族が脂肪分の多いアザラシやシロクマを食べて生活しているにも関わらず、心臓病や生活習慣病になる人が少ないことが注目されました。

そして研究の結果明らかになった、イヌイット民族の食事に多く含まれるオメガ3脂肪酸に関心が集まりました。αリノレン酸はオメガ3脂肪酸の代表的な成分として、現在でもさまざまな研究が進められています。

近年日本でも健康への関心が高まり、αリノレン酸が豊富なアマニ油やエゴマ油、シソ油などが、「健康にいい油」として認知度を高めています。

専門家の見解(監修者のコメント)

生活習慣病の予防やアレルギーなどの炎症反応を抑制するためには、αリノレン酸の摂取を増やし、リノール酸の摂取を減らすことが大切ですが、具体的にはどのようにして摂取バランスを整えるとよいのでしょうか。

池谷医院院長兼理事長で医学博士の池谷敏郎氏は、日本製粉(株)のWEBサイトの対談のなかで、αリノレン酸とリノール酸の摂取バランスが偏らないための対策として、“オリーブオイルを活用する”ことを提案しています。

一価不飽和脂肪酸のオリーブオイルはオメガ9脂肪酸に分類され、加熱に強いという特徴があります。[※1]

「オメガ3(n-3系)脂肪酸の油は、熱を加える調理にはあまり向いていません。そこで、通常加熱調理に使うオメガ6(n-6系)脂肪酸の油を用いてしまうと、オメガ6 (n-6系)脂肪酸の摂取量が増大してしまう。だからそれをオリーブオイルに切り替える」

「揚げ物調理などをオリーブオイルで行う。要はオメガ6(n-6系)脂肪酸をオリーブオイルに置き換えるぐらいの方が良いということです」

(日本製粉「対談 摂るべき油、摂らないでいい油-オメガ3(n-3系)脂肪酸について-」より引用)[※13]

また、αリノレン酸の過剰摂取については、以下のように見解を示しています。

「例えばエスキモーの人たちは、日本人の10倍くらいオメガ3(n-3系)脂肪酸の油を摂っていますが健康被害はありません。心筋梗塞の発症もかなり少ない、という事実から、オメガ3(n-3系)脂肪酸は多く摂っても害にならないと私は考えています」

(日本製粉「対談 摂るべき油、摂らないでいい油-オメガ3(n-3系)脂肪酸について-」より引用)[※13]

αリノレン酸を多く含む食べ物

αリノレン酸は、アマニ油やエゴマ油・大豆油などの油、炒った亜麻仁やくるみ、乾燥エゴマ、大豆やそら豆、油揚げや湯葉などの大豆加工食品に含まれています。[※14]

なかでもαリノレン酸を含む食品の代表と言えるのが、アマニ油やエゴマ油などの植物油です。ただし、これらの油は非常に酸化しやすい性質を持つので、取り扱いには注意が必要です。[※15]

αリノレン酸は熱に弱く、加熱すると酸素と反応して過酸化脂質になります。過酸化脂質は過剰に摂ると、健康への悪影響をもたらすことが知られています。

そのため炒め物やフライなどに使用するのはおすすめできません。アマニ油やエゴマ油などは、ドレッシングやマリネなどのソースに使ったり、納豆や火を止めた後の味噌汁に垂らしたりするなど、熱を加えない料理に活用しましょう。

また保存にも注意が必要です。酸化による変質を避けるため、日光を避けて冷暗所で保存するように気をつけましょう。開封後は早めに使いきることをおすすめします。

αリノレン酸と一緒に摂るべき成分

αリノレン酸は酸化しやすい成分のため、抗酸化成分と一緒に摂取することで、体内の酸化反応の害からからだを守ることができると考えられます。

野菜や果物にはビタミンやポリフェノールなどの抗酸化成分が豊富に含まれているので、αリノレン酸を摂取するさいには意識して取り入れてみましょう。

アマニ油やエゴマ油を加えたドレッシングを新鮮なサラダにかければ、αリノレン酸と抗酸化成分を同時に摂取することができます。

αリノレン酸に副作用はあるのか

αリノレン酸の副作用は今のところ報告されていませんが、酸化したαリノレン酸(過酸化脂質)の過剰摂取は、下痢症状やからだの酸化など、健康へ悪影響が起こる恐れがあります。[※16]

からだが酸化し、活性酸素が増えすぎると、老化スピードを早めたり、生活習慣病のリスクを高めたりしてしまいます。

αリノレン酸を植物油から摂取する場合は、加熱や長期保存による酸化にじゅうぶんな注意が必要です。また極端に偏ることなく、バランスの良い摂取を心がけてください。

参照・引用サイトおよび文献

  1. J-オイルミルズ 脂肪酸の種類について
  2. 深澤皮膚科 アトピーは和食が大切 リノール酸を減らして、α-リノレン酸を強化
  3. サントリー健康情報レポート「オメガ脂肪酸」のことがもっと分かる!オメガライブラリー:オメガ3
  4. 【PDF】日本未病システム学会雑誌 13(2):331-333,2007 「α-リノレン酸摂取による血圧低下作用に関する検討」
  5. アマニフォーラム α-リノレン酸が効果をもたらすしくみ
  6. 【PDF】日本製粉 栄養豊富なアマニ(亜麻仁)の紹介
  7. 大和薬品 ドクターから健康アドバイス オメガ3とオメガ6のバランス
  8. 【PDF】厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2015 年版)の概要
  9. 日経電子NIKKEI STYLE 油のタイプ知り上手に摂取 リノール酸の取りすぎ注意
  10. CiNii「α-リノレン酸(シソ油)の血清資質,脂肪酸組成,血小板凝集能,血液凝固系,過酸化脂質への影響」
  11. J-STAGE 脂質栄養学/4巻 (1995) 1号「アレルギーとn-6/n-3比 その臨床的意義」
  12. わかさ生活 成分情報 > α(アルファ)リノレン酸
  13. 日本製粉 対談 摂るべき油、摂らないでいい油-オメガ3(n-3系)脂肪酸について-
  14. 文部科学省 日本食品標準成分表2015年版(七訂)
  15. アマニフォーラム α-リノレン酸を多く含む食材
  16. ヘルシーパス 酸化した油の害