身体を構成する微量元素である亜鉛。体内には2~3gしか含まれませんが、体内の重要な機能に不可欠であるため、必須微量元素と呼ばれます。亜鉛は300種類以上の酵素の構成成分なので、体のさまざまな代謝活動になくてはならない存在です。ここでは亜鉛のさまざまな効果効能・研究成果・摂取目安量などについて詳しく解説します。
宮澤医院 宮澤賢史先生監修
亜鉛は金属であり、身体を構成する微量元素でもあります。人の健康に不可欠であるため「必須微量元素」とも呼ばれ、必須ミネラルのひとつでもあります。
人の体内にはごくわずかしか含まれておらず、体重60kgの成人の体内に約2gしかありません。たったこれだけでも、体内で亜鉛が不足することによって、さまざまな不調が生じる原因になるのです。
体内に存在する亜鉛のうち約60%は筋肉、約25%は骨に存在しています。皮膚・毛髪に8%、肝臓に4~6%、また血液中などにも分布しています。
亜鉛は人の体の中では、300種類以上の酵素の構成成分となるため、酵素反応の活性化や体内のさまざまな代謝活動に欠かすことができません。
さらに、脳や身体の正常な発育を促す働きも担っています。
亜鉛は免疫、神経、代謝と成長、骨と骨格、内分泌系にも関与しているため亜鉛が不足するとさまざまな疾患や症状が起こる原因となります。
亜鉛の不足によって起こる症状には以下のようなものが挙げられます。
・皮膚のトラブル
・脱毛
・貧血
・味覚障害
・発育不全
・性機能不全
・食欲低下
・下痢
・骨粗鬆症
・傷が治りにくい(創傷治癒の遅延)
・免疫低下
亜鉛には以下のような効果・効能が期待されています。[※1][※2][※3]
■健康の維持に役立つ効果
亜鉛はたんぱく質や核酸の合成に関与しているため、健康の維持に役立ちます。(栄養機能食品として)
■小児の身長を伸ばす効果
亜鉛は、小児の成長や身長の伸びに不可欠な成分です。亜鉛が欠乏すると成長ホルモン等の産生が低下します。
■皮膚や毛髪代謝の維持効果
皮膚や毛髪には体内の亜鉛の8%が存在しています。特に表皮の表面に多く存在しており、亜鉛には皮膚や粘膜の健康維持を助ける効果があります。また毛髪の生まれ変わりを助ける効果もあります。
■生殖機能の維持効果
亜鉛には精子の形成を助ける働きがあります。亜鉛が不足すると特に男性の性線の障害や機能不全が起こりやすくなります。亜鉛不足により男性ホルモンのテストステロンの合成が低下することとも関係しています。
■味覚の維持効果
舌の上皮細胞に亜鉛が多く含まれるため、亜鉛には味覚維持効果があります。
■貧血予防効果
亜鉛は赤芽球の分化や増殖に関与しているため、貧血予防効果があります。
■抗酸化作用
亜鉛はビタミンAの代謝を促し、ビタミンAの抗酸化作用を促すため、抗酸化作用の効果が期待できます。
■うつ症状の緩和効果
亜鉛は脳の神経伝達物質を作るのに不可欠です。亜鉛が体内に十分にあることは、うつ状態の緩和に効果があると期待されます。[※4]
さまざまな食品から私たちの体内に取り込まれた亜鉛は、胃ではほとんど吸収されずに十二指腸から吸収されることがわかっています。亜鉛の吸収率は決して高くはなく20~40%に過ぎません。
十二指腸から吸収された亜鉛は肝臓に到達し、そこから全身に届けられてさまざまな機能を発揮します。
また、肝臓内でも亜鉛は窒素やアンモニアの代謝に亜鉛酵素というかたちで重要な働きをしています。
そして亜鉛の大半は便から排泄されてしまいます。1日に平均5~10mgの亜鉛が排泄されているそうです。
[※2]
以下のようなことに当てはまり、亜鉛を食事からは十分に摂取できていない人は、亜鉛を意識的に摂る必要があります。[※2]
■消化管手術を受けた人
潰瘍生大腸炎やクローン病等などの消化器官系の疾患に罹患している人や手術を受けた人は、亜鉛の吸収量が減ってしまうことがわかっています。
■ベジタリアン
亜鉛は肉類に豊富に含まれるため、ベジタリアンの人が食べている食事からは亜鉛が十分量摂取できない可能性が示唆されます。また、穀類には亜鉛の吸収を妨げる成分も入っています。
■妊婦と授乳婦
体内の亜鉛量がギリギリの状態のまま妊娠すると、胎児に必要な亜鉛の量がマイナスされることにより、妊婦は亜鉛不足になるリスクが高まるとされています。
また授乳でも母体の亜鉛が奪われるため、妊娠中の人や授乳中の人は、意識的に亜鉛を摂取すべきとされています。
■授乳中の月齢の高い乳幼児とその母
産後6か月程度経過した母乳には、必要量の亜鉛が含まれなくなります。そのため、乳幼児は粉ミルクや肉のピューレ状離乳食などで亜鉛を摂取し、母体も母乳の亜鉛不足を改善するために、亜鉛摂取を意識する必要があります。
■アルコールを多く摂取している人
アルコールは亜鉛の吸収量を減少させ、尿から亜鉛を排出させてしまうので、亜鉛摂取を意識する必要があるとされます。
■ハードなスポーツをしている人
長く競技生活を続けているようなスポーツ選手には亜鉛欠乏症由来の貧血が見受けられることが多いとされます。
実際、実業団の男子陸上競技の選手の15%、女子選手の30%に亜鉛欠乏に伴う、非定型方鉄欠乏性貧血が見られるそうです。[※3]
■高齢者
肉類の摂取や、食事量が減少している高齢者にも亜鉛不足が多く見受けられることがわかっています。
「低亜鉛症」や「亜鉛欠乏症」と診断された場合は、医師の指導により亜鉛補充療法等によって治療が行われます。
不調が続き、亜鉛が足りていないのかな?と感じた場合には、自己判断せず医師に相談するようにしましょう。
亜鉛の摂取目安量・上限摂取量については、厚労省の「日本人の食事摂取基準2015年版」によっても詳細に示されています。[※6]
■亜鉛の摂取目安量
厚生労働省によれば、亜鉛の推奨量は成人男性で10mg/日、成人女性では8mg/日としています。さらに妊婦はこれに+2mg、授乳婦は+3mgの付加量があります。
厚生労働省による国民健康・栄養調査(平成20年)によると、成人の場合、男性で平均8.9mg/日、女性で平均7.3mg/日の亜鉛を食事から摂取しているとされます。
このことから、普通の食生活であれば不足の心配はないとされる亜鉛ですが、推奨量に比べてやや不足気味であることがわかります。
特に亜鉛が不足しやすい人として、高齢者や妊婦、スポーツ選手などが挙げられます。
また食品を加工する過程で多くの亜鉛が失われるため、加工食品に偏った食生活をしていると不足しやすくなります。
加工食品に含まれる「リン酸塩」などの添加物も亜鉛の吸収を妨げてしまうことがわかっています。
ちなみに亜鉛の耐容上限量は成人男性が40mg/日、成人女性が35mg/日です。
■年代別亜鉛の摂取目安量
亜鉛の摂取推奨量は年代別にも示されています。
5か月2 mg
6-11か月3 mg(目安量)
1-3歳3 mg(目安量)
6-7歳5 mg
12-14歳(男子)9 mg/(女子)8 mg
15-69歳(男性)10 mg/(女性)8 mg
妊婦(付加量)+2 mg
授乳婦(付加量)+3mg
■栄養機能食品として
亜鉛は栄養機能食品としての表示が許可されています。上限値は15mg、下限値は2.64mgです。
亜鉛の栄養表示には以下の表記が許可されています。
・亜鉛は、味覚を正常に保つのに必要な栄養素です。
・亜鉛は、皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素です。
・亜鉛は、たんぱく質・核酸の代謝に関与して、健康の維持に役立つ栄養素です。
亜鉛の科学的根拠については以下のようなものがあります。[※2] [※3] [※6]
■下痢に関する効果とその根拠
発展途上国では、下痢で命を落とす子どもが少なくありません。しかしWHOやユニセフは下痢の小児に10〜14日間亜鉛を摂取させる(20mg/日、生後6カ月未満の場合は10mg/日)と、下痢症状が緩和し、期間も短縮すると推奨しています。[※6]
■加齢黄斑変性への効果に関する研究
まだ初期の加齢黄斑変性には亜鉛が有効という研究が存在しています。大規模研究で、80mgの亜鉛に500mgのビタミンC、400IUのビタミンE、15mgのβカロテン、2mgの銅を含むサプリメントを6年間毎日摂取した高齢者は、そうでない高齢者と比較して加齢黄斑変性を発症するリスクが低く、視力障害も少なかったと報告されています。[※6]
■免疫機能向上に関する研究
亜鉛が少ないと、免疫機能が低下することがわかっており、亜鉛の補充で免疫機能が改善することが報告されています。[※7]
亜鉛は英語とフランス語で「zinc」、ドイツ語で「zink」といいます。
この由来はドイツ語の「金属」を意味する「zink(e)」だという説が主力ですが、諸説あるようです。16世紀頃は栄養素ではなく金属の亜鉛としてzinkという言葉が使われていたようです。
欧州においては少なくとも17世紀まで金属としての亜鉛の存在は知られていなかったとされています。金属としての発見は1746年、ドイツ人の報告が最初だそうです。
日本語の「亜鉛」は江戸時代中期に、漢方医であった寺島良安という人物が「見た目が鉛に似ている」ということから命名したという説があります。
亜鉛が生物にとって必須の栄養素であることは、1869年にコウジカビを用いた研究が最初であるとされています。1926年に亜鉛がヒトの組織でも発見され、1934年に動物実験で亜鉛が生命に必須な栄養素であることが確認されました。
これは亜鉛の欠乏した食事をラットに与えたところ、「成長が悪くなる」「脱毛が起る」という現象が発現したという研究結果によるものでした。
その後、亜鉛がさまざまな酵素にも配位していることが確認され、人にとって重要な成分であることが徐々に解明されていきます。
1961年には亜鉛欠乏症がイランで発見されました。成長遅延の子どものからだを調べたところ、ポテトやミルク、イーストを使わないパンのみといった、亜鉛不足の食事をしていました。
イランの子どもの栄養失調、低身長、貧血、性機能低下などが亜鉛不足によるものと考えられたため、子どもたちの毛髪に含まれる亜鉛量も調べました。
すると、毛髪の亜鉛量も低いことが示されましたが、亜鉛を補給することでこれらの症状は改善しました。
そして、穀類や豆類中心の食事にはフィチン酸が多く含まれ、これが亜鉛の吸収を阻害すること、亜鉛欠乏症の原因になることも解明されました。
エジプトでも同じような症状の子どもが多くみつかり、亜鉛含有量の多い肉類を摂取させたところ、症状が改善したことが報告されています。
成人の亜鉛欠乏症は1975年に高カロリー輸液のみから栄養補給をしている患者から発見されました。
そのため現在は高カロリー輸液には亜鉛、鉄、銅、マンガン、ヨウ素などの微量栄養素も必ず含まれるようになっています。
[※8]
東京医科大病院(東京都新宿区)の榎本真理・栄養管理科長は、「時事メディカル」の亜鉛欠乏症に関するインタビューで次のように話しています。
「亜鉛はカキが多く含むことで知られているが、毎日食べる人は少ない。日常食べる食品では牛肉や豚肉、のりなどが比較的多いが、どの食品も『これさえ食べれば大丈夫』といえるほどの量は含んでいない。バランスよく多くの食品を少しずつ食べるのが一番だが、それだけに難しい」
また亜鉛不足については
「軽度の亜鉛不足は、不足が解消されればすぐに自覚症状も改善される。まずはどの程度不足しているか血液検査で医師に診断してもらい、回復したら服薬を止める必要がある」
「医学的には異常がないのに、より健康になりたいと思ってミネラルを多く含むサプリメントを摂取し続けると、金属中毒になってしまうこともある。
鉄や胴、亜鉛などのミネラルも過剰摂取を続ければ中毒症状を起こすリスクがある。まず管理栄養士に食生活や症状を相談するか、医師の診察を受けた方がよいだろう」と述べています。
(時事メディカル 亜鉛欠乏症に関するインタビュー記事より引用・抜粋)[※9]
このインタビューで榎本氏は、亜鉛不足は誰にでも起こりやすく、適切な治療で解消もしやすいと説明しています。その一方で、個人の判断でサプリメントに頼ると過剰になりがちなので、医師に血液中の亜鉛血の検査をしてもらう方が良い、ということも話しています。
傷の治りが遅い、口内炎がたびたび起きる、味覚に変化があるといった気になる人は、内科で亜鉛の検査をしてもらうとよいでしょう。
亜鉛は牛肉、豚肉、貝や甲殻類、ピーナッツ、豆類など、一般的な食品に含まれているので摂取不足はあまり起こらない成分です。
ただしこれらの食品が不足している発展途上国では深刻な亜鉛不足が問題となっています。
亜鉛を多く含む食品の代表食品といえば「海のミルク」の別名を持つ牡蠣です。
牡蠣1個の可食部(約15g)には約2mgの亜鉛が含まれますが、成人男性の場合亜鉛の1日の摂取推奨量は10mg(女性の場合8mg)ですから、4〜5個の牡蠣を食べるとカバーできる計算になります。[※2]
日本人の場合は主にご飯や食パンなどの主食となる穀類からも亜鉛を摂取しているとされます。[※10]
ただし、亜鉛の吸収を妨げるフィチン酸や食物繊維が多く含まれている精製されていない玄米、全粒粉のパンなどを主食としている人、あるいはフィチン酸の多く含まれるインスタント食品をよく食べる人は亜鉛不足に注意が必要です。
亜鉛はクエン酸・ビタミンC・動物性たんぱく質と組み合わせて摂取することで、吸収率を高められます。
逆に食物繊維や豆類、種実類(ナッツ類)に多く含まれているフィチン酸や加工食品に多く含まれている添加物(リン酸塩)は亜鉛の吸収を阻害してしまいますので、食べ合わせには気をつけましょう。
[※2]
亜鉛を食品から摂取目安量程度摂取する場合、ほとんどの人に安全とされています。[※2] [※6]
経口摂取(1日40mg未満)や皮膚の塗布でもほとんどの人に安全とされていますが、人によって嘔吐や下痢などの副作用も報告されています。
特にサプリメント、または亜鉛強化食品などで1日2g以上摂取した場合、急性中毒を発生して悪心、嘔吐、食欲不振、下痢などが起こる可能性があります。サプリメントの長期間・継続的な使用、過剰摂取には注意が必要です。
その他副作用については、以下のような情報があります。[※6]
・亜鉛の蓄積とアルツハイマー病の関連性の可能性あるとされている。
・日常的に亜鉛を高能度摂取していると、良性の前立腺肥大になるリスクが上昇するという予備的な研究報告がある。
・100mgの亜鉛サプリメントを毎日、あるいは10年以上継続摂取すると、前立腺がんのリスクが2倍になると云う疫学調査報告がある。