αリポ酸はエネルギーの代謝を促す補酵素で、細胞のすべてのミトコンドリア内に存在しています。長いあいだ医薬品として使用されてきましたが、2004年から日本でもサプリメントとしての利用が認められています。強力な抗酸化作用があり、アメリカではアンチエイジングのサプリメントとして普及している成分です。
αリポ酸はチオクト酸(Thioctic acid)とも呼ばれます。私たちのからだは約60兆個の細胞からつくられていますが、そのすべての細胞の中にあるミトコンドリアにαリポ酸は存在しています。
αリポ酸は、体内では代謝を助ける補酵素のひとつです。
私たちが生きていくためには、酵素による体内の化学反応が必要不可欠です。補酵素は酵素の働きを促したり高めたりする作用があり、αリポ酸は代謝に関わる酵素の働きを助けています。
αリポ酸はビタミンと似た働きをするため、誤解されることがありますが、ビタミンではなく、ビタミン様物質です。[※1]
過去には医薬品として扱われてきましたが、2004年以降に日本でもサプリメントとしての使用が認められました。
医薬品としての効能は、はげしい肉体疲労の改善[※2]です。サプリメントとしては、運動時の疲労回復などが期待されている成分です。
αリポ酸は体内で合成される成分ですが、その量は年齢とともに減少してしまいます。そのため食品やサプリメントでαリポ酸を補うことで、細胞の老化を防いでくれると言われています。[※3]
αリポ酸にはR体とS体があり、体内で生成される天然型のαリポ酸はR体です。
R体はこれまで工業的に製造な難しいとされてきましたが、製造技術の向上により、サプリメントなどの食品にも安全に使用することが可能になってきました。[※4]
市販されているサプリメントにはR体のもの、S体のもの、両方が含まれているものなどがあるため、サプリメントを選ぶさいには注意してみましょう。
αリポ酸には以下のような効果が期待されています。
■疲労回復効果
αリポ酸はエネルギーの代謝を助けるため、疲労回復効果が期待されている成分です。
αリポ酸は細胞内のミトコンドリアに存在しています。ミトコンドリアとは、細胞内の構造物のひとつで、生命活動に必要なエネルギーを生み出す役割を担っています。
食事から摂取した栄養は、ミトコンドリアの働きにより燃焼されて、からだを動かすためのエネルギーとなります。
■美肌効果
αリポ酸には肌のシミやシワ・たるみの原因となる活性酸素の害からからだを守る作用があり、若々しく美しい美肌づくりをサポートしてくれます。
■老化防止
αリポ酸は細胞の老化防止に効果的とされます。
加齢により体内のαリポ酸の量が減ると、エネルギーの生産量も減り、疲れやすさや病気の原因となります。
■そのほかに期待される効果
αリポ酸は、糖の代謝を促進する作用があることから、糖尿病の予防効果も注目される成分です。
臨床試験では、糖尿病の治療に有効とするデータ[※5]も一部ではあるものの、エビデンスがじゅうぶんとは言えず、まだ研究の段階です。
糖尿病患者の場合は、αリポ酸の効果を過剰に期待することなく、病院での治療を受けることが必要です。
αリポ酸は、体内で以下のような作用があります。
αリポ酸の重要な作用は、「クエン酸回路」を円滑に進める、補酵素としての役割です。
食事から摂取した栄養はそのままではエネルギーとして使われず、ATP(アデノシン三リン酸)という分子に変換される必要があります。
体内でATPがつくられる過程がクエン酸回路です。ミトコンドリア内では、摂取した栄養を、肺から取り込んだ酸素を使って、エネルギーとなるATPに変換します。[※6]
このとき、ミトコンドリア内のクエン酸回路の反応を触媒する(化学反応を起こすために働く)酵素の働きを助けるのがαリポ酸です。
ATPは呼吸をしたり、心臓が動いたり、という生命活動を維持するためのエネルギーでもあり、私たちが生きていくためには、円滑なクエン酸回路によるATPの生成が欠かせません。
αリポ酸には、活性酸素と戦う、強い抗酸化作用も知られています。
活性酸素はほんらい細菌やウイルスに対抗するために必要なものですが、増えすぎると健康な細胞まで傷つけてしまい、生活習慣病などの病気や、肌のシミやシワなど細胞の衰えの原因になります。
活性酸素は、乱れた生活習慣や食生活、過度なストレスや喫煙習慣などが原因で増加します。
αリポ酸は増えすぎた活性酸素の害からからだを守る抗酸化作用があり、その作用はビタミンEの数100倍とも言われるほどです。[※3]
αリポ酸は、抗酸化作用成分であるビタミンCやE、コエンザイムQ10などが活性酸素を除去して力を失ったときに、その力を回復させる作用もあります。
また、抗酸化物質としては珍しく、水溶性と脂溶性両方の性質を兼ね備えていることも注目すべき点です。
ビタミンCやE、コエンザイムQ10などの抗酸化物質は、ほとんどが水溶性のものか脂溶性のものに分類されます。
しかしαリポ酸はその両方の性質があるため、働く場所が限定されません。細胞膜にある脂肪分でも、細胞内に含まれている水分でも抗酸化作用を発揮できるのです。[※3]
αリポ酸は運動による肉体疲労の回復効果が期待されるため、スポーツをしている人やはげしい肉体労働をしている人におすすめの成分です。
加齢による疲れやすさや、生活習慣の悪化による慢性的な疲労感などが気になる人も、細胞の活性化や抗酸化作用による改善効果が得られる可能性があります。
肌のシミやシワ、たるみなどが気になる人の美肌づくりのサポート効果も期待できます。
αリポ酸の食品としての摂取目安量などは発表されていません。医薬品(チオクト酸)の注射については、1日1回10~25mgが容量として設定されています。[※7]
国民生活センターの調査[※7]によると、市販されているサプリメントに含まれるαリポ酸の量は、各メーカーによってバラつきがあるということです。
また、αリポ酸の量の表示が適切でないものや、カプセルや錠剤が胃のなかで溶けにくいもの、健康や美容への効果を過剰に期待させるような表示をしているものも販売されています。
サプリメントを選ぶさいには、科学的根拠にもとづいた効果や安全性が示されたものを選ぶようにしましょう。
最近注目される新しいαリポ酸の研究に、抗がん剤の副作用である脱毛の予防効果があります。
抗がん剤による脱毛を予防することは、がん患者の精神的なケアにおいてとても重要です。
アデランスと大分大学の共同研究では、動物実験において、抗がん剤にαリポ酸の誘導体をプラスすることで、脱毛を抑制できるという結果が得られています。[※8]
αリポ酸誘導体を配合した毛髪用のローションの開発や、ヒトに対する臨床試験も進められています。
αリポ酸が発見されたのは1937年です。それから長いあいだ、日本では医薬品としてのみ使用されてきました。
研究により強力な抗酸化作用が明らかになると、サプリメント大国であるアメリカでは、アンチエイジング効果が期待できる成分として普及していきます。
日本では2004年に「医薬品の範囲に関する基準」の改訂によって、サプリメントでの使用が認められ[※7]、健康食品としての利用が広まっていきました。
マイアミ大学医学部精神・行動科学科のJohn E. Lewis 氏は、αリポ酸の効果について以下のように見解を述べています。
「酸化ストレスや炎症を防止するとともに、酵素と遺伝経路が適切に機能するために、αリポ酸はこれらの活動に密接にかかわる分子なのです。
αリポ酸は、様々な異なる種類の遺伝、酵素、細胞機能に対する効果が発見されていることから、科学界や栄養補助食品業界の両方で人気が高まっています」
(大和薬品 なるほど健康塾 ドクターから健康アドバイス「高齢者のグルタチオン産生を高めるために必要なαリポ酸」より引用)[※9]
αリポ酸は、ほうれん草、トマト、ブロッコリー、エンドウ豆などに含まれています。ただしその量は、ほうれん草では100gあたり0.024mg、ブロッコリーで100gあたり0.010mgと、ごくわずかです。[※7]
また、αリポ酸はからだにあまり蓄積されない成分です。効果を実感するためには、毎日継続して摂取することが必要と言われています。[※9]
そのため、加齢により不足するαリポ酸を補うためには、サプリメントの利用が有効であると考えられます。
αリポ酸には、ほかの抗酸化成分の力を回復させる作用があるため、ビタミンCやE、コエンザイムQ10などの抗酸化成分と摂取することで相乗効果が期待できます。
また、必須アミノ酸のリジンとメチオニンから合成されるアミノ酸の一種、カルニチンとαリポ酸を一緒に摂ることで、脂質異常症や高血圧症といった生活習慣病の予防効果を高めてくれるとされています。[※3]
カルニチンは脂質の代謝を促す作用があるため、脂肪燃焼や疲労回復に効果的に働きます。
αリポ酸はそれ自体にはダイエット効果はありませんが、カルニチンと組み合わせることで、ダイエット効果をうたうサプリメントも多く販売されています。
αリポ酸は単独でも重要な成分と言えますが、そのほかの成分との組み合わせによって、お互いの力を高め合う働きをしてくれます。
αリポ酸をサプリメントから摂取する場合は、一緒に配合されている成分にも注目してみましょう。
αリポ酸の副作用として注意が必要なのは、インスリン自己免疫症候群による低血糖です。
2007年から3年間のあいだに、少なくとも17件のαリポ酸による低血糖症が報告されています。[※10]
インスリン自己免疫症候群とは、糖尿病の薬物療法などにより体内のインスリンの作用が乱れ、低血糖症状が起こるものです。
αリポ酸の摂取によるインスリン自己免疫症候群の発症には遺伝的要素がありますが、遺伝性の体質のすべての人が発症するかどうかは明らかになっていません。[※1]
αリポ酸のサプリメントの摂取後に、めまい、動悸、発汗、手の震えなどの症状があらわれた場合、低血糖が疑われるため、速やかに使用を中止して医師に相談しましょう。
αリポ酸は血糖低下薬と併用すると、薬の効果が強くなりすぎて低血糖を起こす場合があります。そのため、血糖低下薬とは併用しないように注意しましょう。[※11]