ここでは、化粧品やサプリメントに配合されている合成されたビタミンC(アスコルビン酸)ではなく、食べ物に含まれる天然由来のビタミンCについて解説しています。効果効能や作用機序、含有量が多い食べ物や摂取方法、副作用や相互作用などについて詳しく説明していきましょう。
ビタミンCは体内で合成することのできないビタミンで、柑橘類や野菜に多く含まれている水溶性のビタミンです。その役割は多岐に上り、コラーゲンやアミノ酸を合成するために不可欠な補酵素として役立ち、傷の回復、鉄の吸収などもサポートしています。
またその強い抗酸化作用によりウイルスなどに対する免疫力を高め、日焼けによるメラニン色素の生成も抑制してくれます。またストレスに抵抗するホルモンである「アドレナリン」の合成にも、ビタミンCが関与しています。 [※1]
ビタミンCは水に溶けやすく、いったん体内に吸収されても尿とともに体外に排出されやすい性質があるため、不足しないようにするためには継続的に食品から摂取する必要があります。[※2]
ビタミンCには次のような効果効能があります。[※1][※3][※4][※5][※6]
■老化や身体機能の低下を予防する効果
ビタミンCには細胞の酸化を防ぐはたらきがあるため、細胞の酸化によって起こる身体機能の低下や老化を改善および予防することができます。
■美肌効果
メラニンの生成を抑え、肌に沈着する黒色メラニンを無色化するはたらきで、シミにアプローチします。また、細胞の酸化によるシワやたるみの予防にも有効です。
■免疫力を高める効果
ビタミンCを大量に摂取すると、体内で過酸化水素(殺菌作用をもつ化合物)がつくられ、細菌やウイルスに対抗する力が高まります。また、最近ではがん細胞に対する効果も確認されています。
■骨や血管を丈夫にする効果
ビタミンCは骨や血管に含まれるコラーゲンの形成をサポートするため、壊れにくい血管壁と骨をつくるのに役立ちます。
■貧血予防
ビタミンCと鉄を併用摂取すると鉄の吸収率が高まるため、貧血予防に有効です。
■ストレス解消効果
ビタミンCはストレス対抗ホルモン(副腎髄質ホルモン/アドレナリン)の生成を促がす補酵素であるため、ストレス解消効果が期待できます。
ビタミンCの作用機序について解説します。[※3][※4][※5][※6][※7]
ビタミンCは活性酸素を阻害する作用と還元作用(酸化した物質から酸素を奪い、酸化する前の状態に戻すはたらき)をもつ成分です。
私たちの体は毎日活性酸素からの攻撃にさらされていますが、ビタミンCを摂取すると活性酸素のはたらきが阻害されるので、肌・身体機能へのダメージを低減することが可能です。また沈着してしまった黒色メラニンを還元作用によって元の状態に戻すため、シミやくすみを薄くする効果も期待できます。
また、ビタミンCは体内の酵素のはたらきを助ける補酵素としての役割もあります。ビタミンCを摂取すると、骨や血管、皮膚に含まれるコラーゲン繊維を三重らせん構造(3本のコラーゲン繊維がらせん状に絡まりあった状態)にする酵素のはたらきをサポートして、骨・血管・皮膚を丈夫にすることがわかっています。
また、腸内に届いたビタミンCは、体内に吸収されにくい形の鉄(三価鉄)を吸収されやすい形(ニ価鉄)に変える酵素のはたらきをサポートするため、鉄を効率よく吸収できるようになるのです。
ちなみに、ビタミンCを大量に摂取して血中のビタミンC濃度が高まると過酸化水素がつくられます。過酸化水素は活性酸素のひとつですが、正常な細胞にはダメージを与えず、がん細胞にのみ殺傷効果をもつことがわかっています。さらに、過酸化水素には抗菌作用があるため、体内に侵入した細菌やウイルスを防ぎ、免疫力を高める効果も期待できます。
高濃度ビタミンC点滴などの治療はがんなどの自己免疫疾患の治療にも導入されており、美容や健康効果だけでなく、特定の疾病に対する効果についても研究が進められている成分でもあります。
次の項目に該当する人は活性酸素による老化・身体機能の低下が起こりやすいので、抗酸化作用をもつビタミンCを積極的に摂取しましょう。
■紫外線を浴びる機会が多い
■喫煙者(または周りに喫煙者がいる)
■激しいスポーツをしている
■ストレスを溜め込んでいる
■作用の強い医薬品を摂取している
■排気ガスを浴びやすい環境にいる
■加工食品ばかり食べている
ビタミンCの摂取基準は、日本人の食事摂取基準(2015 年版)にて厚生労働省が定めています。[※8]
■1日あたりのビタミンC摂取基準
推定平均必要量 | 推奨量 | |
---|---|---|
1~2歳 | 30 mg | 35 mg |
3~5歳 | 35 mg | 40 mg |
6~7歳 | 45 mg | 55 mg |
8~9歳 | 50 mg | 60 mg |
10~11歳 | 60 mg | 75 mg |
12~14歳 | 80 mg | 95 mg |
15歳以上 | 85 mg | 100 mg |
出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015 年版)」
男女のビタミンC摂取基準は基本的に同じです。ただし、妊婦は年齢あたりの推奨量に10mg付加、授乳婦は年齢あたりの推奨量に45mg付加します。また、1歳未満の幼児のビタミンC摂取目安量は40mgですが、必要量や推奨量の設定はありません。
ビタミンCは体外に排出されやすい性質があるため、推奨量以上を摂取しても大きな問題はありません。ただし、下痢や胃けいれん、頭痛などの症状があらわれた場合は、ビタミンCを摂り過ぎているサインなので摂取量を減らしましょう。1日あたりのビタミンC上限量は以下のとおりです。
■1日あたりのビタミンC上限量
1~3歳 | 400 mg |
4~8歳 | 350 mg |
9~13歳 | 1,200 mg |
14~18歳 | 1,800 mg |
20歳以上 | 2,000 mg |
出典:厚生労働省統合医療情報発信サイト「ビタミンC」
早稲田大学大学院スポーツ科学研究科の矢田光一らは、動物実験でビタミンCの抗酸化作用を調査しました。[※10]
ビタミンCの抗酸化作用は、普通に生活している時とトレーニング後では異なるのか調べるために、雄のスプラーグドーリーラットを次の4グループにわけて比較実験を行っています。
1.ビタミンCを投与した後、計6時間/日の水泳トレーニングを実施(7匹)
2.ビタミンCを投与した後、トレーニングを行わない(7匹)
3.ビタミンCを投与せずに、計6時間/日の水泳トレーニングを実施(7匹)
4.ビタミンCを投与せずに、トレーニングも行わない(7匹)
実験の結果、ビタミンCを投与したラットの体内では、活性酸素のはたらきを抑える酵素が活性化し、血中の酸化ストレス(活性酸素による有害な作用)の低下が確認されています。
ただし、ビタミンC投与後に水泳トレーニングを実施したラットを調べたところ、運動の酸化ストレスを受けた骨格筋の疲労物質を代謝する酵素に関しては、変化がありませんでした。
実験結果から、ビタミンCの投与は抗酸化能力向上と酸化ストレス軽減につながるが、持久力に影響を及ぼす可能性は低いと考えられています。
ビタミンCの効果が注目されはじめたのは1850年頃です。当時は船員たちの間で壊血病(粘膜系から出血する病)が流行り、たくさんの人が命を落としていました。このとき、柑橘類を食べている船員に壊血病発症者が少ないことに気づいたのが、イギリスの海軍の軍医であったジェームズ・リンド博士です。しかし、この頃は柑橘類を手に入れるのが難しい時代だったため、その有効成分についてはわからないままでした。
柑橘類から壊血病を予防する因子を抽出することに成功したのは1920年。発見者はイギリスの生化学者ジャック・ドラモンドで、この因子の仮の名称として「ビタミンC」と名付けました。
その後、世界的な生理学者セント=ジェルジ・アルベルトが牛の腎臓から発見した「ヘキスロ酸」という物質もまた、ジャック・ドラモンドが発見したビタミンCと同じであることがわかりました。
1933年にはイギリスの科学者ウォルター・ノーマン・ハースの手によってビタミンCの構造式が解明され、「アスコルビン酸」という正式名称が名付けられています。
ビタミンCの構造式が明らかになってからは、ビタミンCを化学的に合成できるようになりました。現在では、合成されたビタミンCがサプリメントや医薬品、酸化防止を目的とした食品添加物など幅広い分野で活用されています。[※11]
ビタミンCの摂取量が極端に少ない場合、壊血病(粘膜系から出血する病)を発症するおそれがあります。壊血病になるとさまざまな症状(歯茎の腫れや出血、疲労感や内出血、傷の治りが遅くなる、髪がうねるなど)があらわれます。
杏林予防医学研究所の所長とアカサカフロイデクリニックのCEOを兼任する山田豊文氏は、ビタミンCと壊血病の関係性について自身の書籍に次のように記していました。
「ビタミンC欠乏症の壊血病では歯茎から出血が起こります。これはビタミンCのチカラが必要な皮下組織のコラーゲンが不安定になるため、血管や組織が破れやすくなることが原因です」(『「食」を変えれば人生が変わる 病気にならない体を手に入れる食の改善法』より引用)[※12]
「だからといって、ビタミンCが壊血病を治す薬と考えるのもまた間違いです」(『「食」を変えれば人生が変わる 病気にならない体を手に入れる食の改善法』より引用)[※12]
山田氏の見解によると、壊血病の原因がビタミンC不足なのは明らかですが、ただビタミンCを摂取しても壊血病が治るとは限らないようです。さらに山田氏はビタミンCの効果効能について次のようにコメントしています。
「ビタミンCは特定の病気に効く薬ではない代わりに、体そのものの健康レベルをどんどん上げていくので、UCLAの調査結果からも分かるように病気になる機会を減らし、寿命を延ばすことにも貢献するのです」(『「食」を変えれば人生が変わる 病気にならない体を手に入れる食の改善法』より引用)[※12]
つまり、ビタミンCはあくまでも病気を治す薬ではなく、健康レベルを高める補助的な成分であるということです。山田氏は著書内で、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究を例に挙げ、ビタミンCが健康維持にいかに役立つのか解説しています。
「カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)が、1971~75年と1982~84年の2回にわたって、成人一万人以上を対象に、ビタミンCの摂取量が健康状態に及ぼす影響を調査・研究したことがあります。
それによると、ビタミンCをたくさん摂る人は、摂取量が少ない人に比べて、すべての病気による死亡率が男性で約四割、女性で一割低いことが分かりました。この研究によると、ビタミンCの大量摂取者は男性で六年、女性で一年寿命が延びるそうです」(『「食」を変えれば人生が変わる 病気にならない体を手に入れる食の改善法』より引用)[※12]
研究結果からわかるように、ビタミンCを日常的に摂取することは、現代ではほとんどかかることが少ない壊血病予防だけでなく、さまざまな疾病への罹患リスクを下げ、健康寿命を延ばすために役立つ成分であると考えれば良いでしょう。
ビタミンCが多く含まれている食べ物は以下です。
■ビタミンCの含有量が多い食品10選(食品100gあたり)
食品 | 状態 | 含有量 |
---|---|---|
アセロラ(酸味種) | 生 | 1,700mg |
アセロラ(甘味種) | 生 | 800mg |
グァバの実(赤または白) | 生 | 220mg |
トマピー(トマトの形をしたパプリカ) | 生 | 200mg |
赤ピーマン | 油炒め | 180mg |
赤ピーマン | 生 | 170mg |
黄ピーマン | 油炒め | 160mg |
ゆず(皮) | 生 | 160mg |
芽キャベツ | 生 | 160mg |
黄ピーマン | 生 | 150mg |
出典:文部科学省「日本食品標準成分表2015年版(七訂)|第2章 日本食品標準成分表(日本語版)」(6野菜類、7果実類)[※13]
ビタミンCと聞くとレモンをイメージする人が多いですが、もっとも含有量が多いのはアセロラです。さらに、パプリカやピーマン、芽キャベツなどの野菜類もレモン以上のビタミンCを含んでいます。
ただし、ビタミンCは水溶性のビタミンCであるため、煮たり茹でたりすると溶け出てしまいます。茹でるとしても短時間にする、蒸す、煮たスープなども一緒に摂るといった調理法に工夫が必要です。
加熱すると変性してビタミンCとしての効能が失われるという通説もありますが、これについては諸説あるようです。ただビタミンC を効率よく摂取したい人は、アセロラやゆずなどのフルーツ類をミキサーにかけ、ジュースとして飲む方法がおすすめです。
フルーツが苦手な人は、パプリカやピーマン、芽キャベツなどビタミン群が豊富な野菜をさっと蒸して、温野菜としていただくと良いでしょう。
ビタミンCと一緒に摂ることで相乗効果が得られるのは「ビタミンA」と「ビタミンE」です。ビタミンCと同じ抗酸化作用をもっている成分なので、併用摂取すると抗酸化作用が高まります。[※15]
ビタミンCは抗酸化作用を発揮する際に変性するなどして傷ついていますが、ビタミンEは、一度体内で利用されたビタミンCを修復するはたらきがあるため、ビタミンCの効果効能が長続きすると考えられています。[※14]
ビタミンCの摂取は、推奨量内であれば基本的に安全です。ただし、体質によっては吐き気や嘔吐、胸やけや胃のけいれん、頭痛や下痢などの副作用が起こることがあります。また、ビタミンCを過剰摂取した場合も、同様の副作用があらわれます。
過去に腎結石の経験がある人は、1日あたり1,000mg以上のビタミンC摂取によって再発リスクが高まります。ただし野菜や果物からの過剰摂取は考えにくく、一般に過剰摂取の可能性があるのは、サプリメントとしてアスコルビン酸を摂取するケースがほとんであると考えます。
また糖尿病やがん、遺伝性の貧血症など、特定の疾病・疾患がある人は、ビタミンCの摂取が治療の妨げや悪化につながる場合があります。医師の指導がない限り、ビタミンCの摂取を避けてください。[※6]
ビタミンCと医薬品を併用摂取することで、次のような相互作用が起こるおそれがあります。[※6]
■医薬品の作用・副作用が増強する
【該当する医薬品】
・エストロゲン製剤(ホルモン補充薬)
・ペントバルビタールカルシウム(鎮静催眠薬)
■医薬品の効果が弱まる
【該当する医薬品】
・フルフェナジン(抗精神病薬)
・ワルファリンカリウム(抗血栓薬)
・HIV治療に用いられる抗ウイルス薬
・がん治療に用いられる薬
・血清コレステロール値を下げる医薬品