クエン酸は梅干しや柑橘類に含まれ、「疲労回復に効果がある」といわれてきました。近年、十分な信頼できる有効なデータがないため「疲労回復効果は期待できない」との文献が出回っています。クエン酸がどのような成分なのか、安全性や効能など説明していきます。
クエン酸とは、ヒドロキシカルボン酸の「α₋ヒドロキシ酸」の一種で、酸味成分の一種で酢やレモンなどの柑橘類に多く含まれる有機酸です。体内において重要なはたらきがあり、クエン酸回路にてエネルギー生産に関与しています。
クエン酸は動物や人間の体内に分布しているほか、PH調整や酸化防止剤などとして利用されている成分です。体内では、エネルギーの生産の代謝システムであるクエン酸回路の部分で重要なはたらきをしています。[※1]
一般的に、「ダイエット効果、疲労回復、痛風予防、運動後の疲労予防によい」とされてきましたが、人体での試験や十分に信頼できるデータが見当たらないとされ、その作用などが見直されています。
以下の効果が期待できると考えられます。
■ミネラルの吸収を促進する
クエン酸には鉄やマグネシウムの吸収を助ける働きがあると一部で考えられています。[※2][※3]
ミネラルとは、微量ながらも人間の健康維持に必要な栄養素で、体内には約60種類あり微量元素として存在しています。
■アルカリ性の汚れを落とす
クエン酸は酸性のためアルカリ性の物質を中和するはたらきがあり、アルカリ性の汚れや水垢を落とし、消臭、抗菌効果があるとされています。
アルカリ性・酸性とは、水溶液(水に物質を溶かした液)の性質、pH7を中性とし、中性未満(pH0~6)を酸性、中性以上(pH8~14)をアルカリ性としています。
クエン酸は体内のエネルギー代謝時に重要な物質です。
代謝とは、エネルギー得る過程のことで、生命維持に必須な体内で起こる化学反です。体のエネルギー代謝は、ミトコンドリア内で糖質(グルコース)をエネルギーに代謝する「クエン酸サイクル」(TCAサイクル又は、クエン酸回路)行われています。
胃で消化された炭水化物が、小腸で吸収された単糖類は肝臓に運ばれ、グルコースとなり、一部「グリコーゲン」として貯蔵され、その他は血中から全身へ運ばれエネルギー源となります。
このグルコースが酵素により分解され、ピルビン酸になり、エネルギーが発生します。酸素を使わない代謝なので解糖系といい、強度の強い運動(中距離走など)で酸素がないときに使われます。
解糖系でできたピルビン酸は酵素によってアセチルCoAという物質に変わり、クエン酸回路に入ります。この回路でできたクエン酸が呼吸の酸素と反応し、水と大量のエネルギーを発生し、生命活動に欠かせないエネルギー源となります。
この回路をクエン酸回路といい、強度の強い運動(長距離マラソンなど)で使われます。
強度の強い運動時に酸素が不足していると、ピルビン酸はクエン酸サイクルに入っていけず、ピルビン酸が乳酸にかわります。[※2]
2004年にクエン酸を摂取し、運動成績などに関与について調べるため5キロランナー10名を対象に試験が行われました。
その結果、「運動前の水分保持、血漿容量、および血液pHの上昇を誘発するが、訓練された男性ランナーの現場条件での競技実行5kmでは性能を改善しない」とされました。[※4]
クエン酸は「ダイエットによい」と言われていた理由としては、エネルギーの生産に関与しているからとの理由です。
以前は、サプリメントとして流行し、「クエン酸摂取により運動能力や運動成績が向上した」「疲労回復した」「ダイエットによい」などの効果が言われていましたが、現在は人での信頼できるデータが見当たりません。
鉄やマグネシウムの吸収を高めたい人に摂取してもらいた成分のひとつです。
食品に含まれるクエン酸としての上限はありません。
しかし以下の副作用で記載した死亡例があり、サプリメントなどの高濃度クエン酸には安全性の情報が見当たらないため、注意が必要です。
■物理的疲労に及ぼすクエン酸およびL-カルニチンの影響
日本人健康な男女18名を対象に「クエン酸およびLカルニチン投与が物理的に疲労回復に及ぼす影響の試験」を実施しました。
7日間、クエン酸1,350 mgを2回/日又はL-カルニチン500 mgを2回/日摂取させ、8日目の朝には75gのグルコース負荷と同時にクエン酸1,350 mgまたはL-カルニチン500 mgを摂取後運動させ疲労度を計りました。
その結果、疲労に関する自覚症状の減少が認められましたが、ホルモンの指標や代謝への影響は認められませんでした[※5]。
■海外の研究では、子供の鉄欠乏症への治療で鉄の吸収にクエン酸添加物が期待できるとの結果が発表されています。健常者42名を対象にクエン酸を摂取した場合と摂取しなかった場合の鉄吸収の試験が行われました。
その結果、鉄吸収率はクエン酸を摂取した場合3.9%から54%までに高まったとの結果がでました。[※6]
■マグネシウムの吸収の試験では、クエン酸はマグネシウムの吸収を高めるとの結果が発表されました。46名を対象に60日間 アミノ酸キレート、マグネシウムクエン酸キレート、酸化マグネシウムの3郡に分け試験を実施しました。
その結果、尿中・血液中にマグネシウムクエン酸キレートが多く、吸収された結果が出ました。この結果から、クエン酸はマグネシウムの吸収を高める効果があると考えられます。[※7]
クエン酸の疲労回復効果については、「効果がない」、「効果がある」と両意見の文献があります。
2001年、日本で健康な成人男性6名の被験者として運動後、クエン酸と乳酸除去の試験がおこなわれました。クエン酸、またはレモン果汁をグルコースともに摂取させた人、グルコースのみ摂取させた人に分け、血中乳酸を測定しました。
いずれも血中乳酸濃度は低下し、何も摂取しなかった人よりその速度が速い結果がでました。
「クエン酸、もしくはレモン果汁の摂取が運動後の乳酸除去に働きかけている」との意見があります。
「クエン酸を投与した場合には、乳酸の分解が促進されると考えられる」
との結果が出ました[※8]が、被験者が少ない、他の信頼できるデータがないため現在は有効性がないとされています。
疲労回復にクエン酸と信じて積極的に摂取していた人も多く、クエン酸の効果については今後の研究が待たれます。
1784年スウェーデンの科学者シェーレがレモンからクエン酸を発見しました。
クエン酸サイクルの発見は1937年クレブス博士により発見されました。1953年にはノーベル医学生理学受賞しその後、世界的にクエン酸サイクルが注目されました。[※1]
人の代謝に重要なクエン酸ですが、疲労回復に対しては有効性がないとされ、まだ未解明な部分があります。
今後の研究が期待できると考えられます。
クエン酸を多く含む食品としてはレモン100g中3g、グレープフルーツ100g中1.1g、キウイ100g中1.0g、パインアップル100g中0.7g、など果物に多く含まれています。その他、梅干し、酢、クエン酸飲料などにも含まれています。
市販のクエン酸入りドリンクなど色々な種類が販売されていて、ドリンクタイプ、顆粒タイプがあります。
ドリンクタイプのものでは、1本あたりクエン酸が1.35g含まれているもの、顆粒タイプでは1回分使用量でクエン酸4g含まれるものなど、含有量は様々です。
クエン酸は、鉄やマグネシウムの吸収を高める効果があります。クエン酸を含む食品と、鉄を多く含む食品(レバー、あさり、しじみ、ほうれん草)、マグネシウムを多く含む食品(絹ごし豆腐、バナナ、ほうれん草、ながこんぶ など)と一緒に摂取するとよいでしょう。
食品からのクエン酸を摂取する場合、ほぼ安全とされています。しかし、サプリメントなどの信頼できる報告は見当たりません。まれに下痢や吐き気を起こすことがあります。
日本人の症例として、「40代男性精神疾患がある人が高濃度クエン酸入り原液飲料を大量摂取後、代謝性アシドーシスにより死亡」という例があります。20~30倍に薄めて飲むクエン酸高濃度飲料を無希釈で800ml(クエン酸約90ml)摂取したのち意識不明で搬送、処置したが改善されず死亡したとの症例がありました。[※10]
掃除として使用する場合、大理石には使用しない、鉄や銅の鍋には使用しないなどあるので、必ず、使用時にはパッケージの表示を確認してから使用しましょう。