カプサイシンは唐辛子に含まれている辛味成分。ダイエットや健康維持、育毛などに効果があるとされています。唐辛子の辛味が強いほど、カプサイシンの量も比例して多く含まれるといいます。このページではカプサイシンの効果効能や作用のメカニズム、副作用などについて解説しています。
カプサイシンは唐辛子に含まれている辛味成分です。交感神経を刺激してホルモン分泌を促すことで、エネルギー代謝を促進したり血流を改善したりしてくれます。
カプサイシンは、カプサイシノイドと呼ばれる天然有機化合物のうちの1つ。油やアルコールに溶けやすい脂溶性です。カプサイシンを含んでいる唐辛子は、香辛料としてさまざまな料理に使用されています。
カプサイシンが多く含有されているのは唐辛子の胎座(種の周りの部分)や隔壁の部分。唐辛子の皮にも少量ではありますが、カプサイシンは含まれています。[※1]
辛さが苦手な人は種の部分を取り除いて食べますが、皮に含まれるカプサイシンは摂取できます。
唐辛子には、辛さを示すスコヴィル値という基準があります。スコヴィル値が高いほど、カプサイシンの含有量も比例して増えていきます。
スコヴィル値は、唐辛子の抽出物を甘味水で薄め、辛味を感じる希釈倍率を数値化する研究をした、スコヴィルにちなんでつけられた辛さの指標です。[※2]
カプサイシンにはさまざまな効果や効能があります。[※3]
■ダイエット効果
カプサイシンはエネルギー代謝を活性化させ、脂肪燃焼を促します。脂肪を減らす手助けをしてくれるため、リバウンドしにくいダイエットが可能です。
■血流改善(冷え性・薄毛・疲労回復)
カプサイシンにはエネルギー代謝を活性化させる作用があるため、血流が良くなります。末梢血管の血流が良くなると冷え性が、頭皮の血流が良くなると薄毛の改善が期待できます。さらに代謝が良くなることで、疲労回復にも役立ちます。
■コレステロール排出
カプサイシンにはコレステロール排出作用があることがわかっています。悪玉といわれるLDLのみに作用し、生活習慣病の予防に役立つとされています。[※4]
■食欲増進
カプサイシンは消化管に刺激を与え、唾液や胃液の分泌を促し、食欲を増進させます。夏バテや体調不良で食が進まないときなどに唐辛子を摂取するケースもあります。
■抗酸化作用
カプサイシンには抗酸化作用があります。体内の活性酸素を無害化して、体を酸化から守ってくれます。[※5]
■塩分過多の防止
カプサイシンの辛味を利用すると、塩分コントロールにつながります。減塩調理の物足りなさを、辛味が補ってくれるからです。
■痛みの軽減
関節リウマチや関節炎、帯状疱疹、糖尿病性神経症などの痛みがある部位にカプサイシン入りのクリームを塗布することで、痛みを軽減してくれます。また、群発頭痛の痛み軽減効果が期待されています。[※6]
カプサイシンは体内に入ると、アドレナリンの分泌を促し、脂肪分解酵素であるリパーゼを活性化させます。[※7]
アドレナリンは、交感神経優位の時に分泌されるホルモン。つまり、身体が活動的なときに分泌されるものです。活動にはエネルギーが必要になるため、脂肪を分解するリパーゼを活性化させ、体内に蓄積されているエネルギーを使用します。この作用により、カプサイシンには脂肪燃焼の効果があるといわれているのです。
またカプサイシンは痛みを感じる受容体TRPV1を刺激します。継続的に刺激(痛み)を与えると、刺激に対して徐々に鈍感になり(脱感作)、痛みを感じにくくなるのです。[※8]カプサイシン入りの鎮痛クリームは、この作用を用いてつくられています。[※9]
カプサイシンの抗酸化作用についてはまだ作用機序が解明されていない部分も多く、研究が続けられています。[※5]現時点では、カプサイシンが暴走する活性酸素に反応して安定化させ、活性酸素がほかの細胞を傷つける働きを抑制する作用があると考えられています。
カプサイシンにはエネルギー代謝の活性化・悪玉コレステロールの排出・血流の改善・抗酸化などの効果があります。[※1]
そのため、以下のような人におすすめです。
また、頭皮の血流が改善することにより、薄毛の改善も期待できます。
日本ではカプサイシンの摂取量の目安や上限は設けられていません。しかし、ドイツでは、「辛すぎることは健康的ではない」として、ドイツ連邦リスク評価研究所が意見書を発表しています。
意見書によると、ヒトの胃に悪影響を及ぼさないのは体重1kgあたり、カプサイシン5mgであるという見解を発表しています。[※10]
日本でよく目にする鷹の爪1本(約1g)には約1mgのカプサイシンが含まれているので、5本×体重(仮に60kgのひとなら300本)までは問題ないということにはなります。[※2]
ただし辛味には強烈な刺激があるため、唐辛子の摂り過ぎはよくありません。大量にカプサイシンを摂取すると、辛味の刺激によって消化管などの粘膜が傷付くおそれがあります。
欧州では100 mg/ kg以上のカプサイシンが含まれる場合には、その食品のラベルに明記することを推奨しています。
名古屋市立大学で行われた研究では、高コレステロール血症のマウスにカプサイシンや唐辛子、カプサイシン類似体を与えたところ、血中のコレステロールが正常になりました。マウスの糞便を調べたところ、コレステロールの排泄量が増えていたことがわかりました。
また、カプサイシン消化管の蠕動運動を亢進(機能が通常よりも高まる)こともわかりました。[※11]激辛料理を食べると便意を催すのは、この作用によるものと考えられています。
ラットを使った別の実験では11週にわたり高脂肪食とカプサイシン合成類似体を与えた結果、リパーゼが活性し、肝臓や血中の中性脂肪を低下しました。また、筋肉組織が血液中の中性脂肪を取りこんでいる可能性があると示唆されています。[※12]
きっかけは1846年。イギリスのスレシュという研究者が最初に結晶化に成功しました。その後、1876年に唐辛子の学名「カプサイシウムアニューム」から、カプサイシンと名付けられたのが歴史の始まりです。
1961年に日本人化学者の小菅貞良と稲垣幸雄は、カプサイシンは単一体ではなく、混合体(カプサイシンとハイドロカプサイシン)であることを突き止め、それまでカプサイシンと呼ばれていたものをカプサイシノイドと命名。[※13]また、辛味成分の分離や含有比率の解明などもしています。[※14]
唐辛子としての歴史は古く、紀元前6世紀ごろには栽培されていたといいます。原産地は中南米で、当時はカカオの粉を溶いたモノに唐辛子を加えて飲んでいたという説もあります。
そして、15世紀ごろにコロンブスがスペインへ持ち帰ったことから、世界中へ広まったとされています。[※15]
広まった先々で交配されてきたため、世界中にさまざまな品種の唐辛子が存在し、現代でも「辛さ世界一」を目指して新しい品種の改良がすすめられています。
静岡県立大学食品栄養科学部の渡部教授は、唐辛子研究の第一人者。カプサイシンにダイエット効果があるのかという問いに対し、以下のように回答しています。
「カプサイシンを摂ると交感神経を介してアドレナリンというホルモンが分泌され、エネルギーの消費を高めることがわかったのです。つまり、同じカロリーのものを食べたとしたら、カプサイシンを摂ったほうがより太りにくくなるといえます。」(現代ビジネス 「トウガラシは鳥に恋する!? カプサイシンの辛さを解き明かす!」 より引用)[※16]
カプサイシンのエネルギー代謝アップの効果は確かなものといえるでしょう。また、次のようなコメントもありました。
「非常に変わった効果として、トウガラシには胃粘膜の保護作用があるのです。ただ、気をつけないといけないのは、食べすぎると胃の粘膜を損なってしまいます。ほどほどの量であることが肝心です。」(現代ビジネス 「トウガラシは鳥に恋する!? カプサイシンの辛さを解き明かす!」 より引用)[※16]
このことから、カプサイシンを含む唐辛は適度な量を意識して摂取すれば、胃粘膜の保護にも役立つ可能性があることがわかります。食べ過ぎのデメリットと背中合わせではありますが、興味深い作用です。
唐辛子の辛味は品種による違いだけでなく個体差もありますが、小粒で先が尖っているほうが辛味は強いとされています。
唐辛子の品種別に辛味の違いをみてみましょう。カッコ内は辛さを表すスコヴィル値です。スコヴィル値が高いほど、カプサイシンの含有量も多くなり、その分刺激も強くなります。
■唐辛子の品種とスコヴィル値
唐辛子は多機能なスパイスです。実を刻んで料理に入れたり粉末を味付けとして使ったりもできますし、実をそのまま食べることも可能です。辛いものが苦手で唐辛子を食べられない人はカプサイシン入りのサプリメントで代用できます。
カプサイシンの辛味は刺激となるため、発がん性が疑われています。しかし、ショウガと一緒に摂ることで発がん性リスクが低減し、逆にがん予防の効果が高まるという研究結果が発表されました。
これはカプサイシンとショウガのジンゲロールの相乗効果によるもので、カプサイシンの刺激がジンゲロールの抗炎症作用で打ち消されたというのです。研究結果から、カプサイシンとショウガ(ジンゲロール)を一緒に摂ることで血流が改善し、体温が上がって発がんリスクが減るのではないかと推測されています。[※17]
育毛に良いといわれるのは、カプサイシンと大豆イソフラボンの組み合わせ。ただし、根拠となっていた論文のねつ造問題が発覚したため、真偽が疑われています。論文のどの部分がねつ造だったのかは不明なため、本当に育毛効果があるのかどうかはわかっていません。
カプサイシンは大量に摂取すると、胃粘膜の保護機能が働かなくなる可能性があるため、摂り過ぎには注意が必要です。
また、カプサイシンを含む粉末や液体などが目や鼻の粘膜に付着すると、焼けるような痛みが生じます。
[※1]
辛さは刺激(痛み)となるため、小児や胃腸が弱い人は摂取量を少量にとどめておきましょう。
カプサイシンと一緒に摂取すると相互作用のあるとされる薬は以下です。[※6]
■血液凝固抑制剤
紫斑や出血などをまねくおそれがあります。血液凝固抑制剤と同様に、血液凝固抑制の作用を持つハーブやサプリメントなどとの併用でも相互作用が起こる可能性があります。
■高血圧治療薬(ACE阻害薬)
咳が悪化するおそれがあります。
■テオフェリン(気管支拡張薬・キサンチン誘導体)
カプサイシンにはテオフェリンの吸収量を増加させる働きがあるため、薬の作用や副作用が強く出てしまうおそれがあります。
■コカイン(局所麻酔)
カプサイシンを含む唐辛子がコカインの副作用を増強させるおそれがあります。コカインの投与中に唐辛子を摂取すると、心臓発作などの副作用により、最悪の場合死に至るおそれがあります。