アルギニンは食品から得られるアミノ酸で、たんぱく質の合成に必要な成分です。体内では一酸化窒素NOという化合物に変化し、血流を促進させたり、成長ホルモン分泌を促したりといった、重要な働きをしていることがわかっています。ここではアルギニンの効果効能・研究成果、摂取目安量などについて詳しく解説します。
アルギニンとはアミノ酸のひとつです。自然界には500種類以上もあるアミノ酸ですが、人体の構成成分となるアミノ酸は20種類しかありません。そのうちのひとつがアルギニンなのです。
このアルギニンは皮膚や髪の毛を構成する「ケラチン」にも含まれています。
人体を構成するアミノ酸のうち、私たちの体内で合成できないものを「必須アミノ酸」といいますが、アルギニンは乳幼児や子どものうちは体内で合成できない必須アミノ酸です。
このアルギニンは子どもの成長にとって、特に重要な成分であることがわかっています。そのため一般的な粉ミルクにもアルギニンは添加されています。
アルギニンには次のような効果・効能が期待できます。[※1][※2]
■成長ホルモンの分泌を促す
アルギニンは脳下垂体を刺激して成長ホルモンの分泌に関与する成分です。成長ホルモンは子どもの成長だけでなく、成人にとっても疲労回復、傷の修復、筋肉の合成などに不可欠な成分です。
■体内の解毒に関与しエネルギー産生を活性
アルギニンは体内でアンモニアを代謝する「オルニチン回路(尿素回路)」の働きに関与しています。
オルニチン回路とは、アンモニアが肝臓内のオルニチンと反応し、アルギニンに変わり、さらにこのアルギニンから尿素が切り離されてオルニチンに戻る、というからだの代謝回路のことです。
アンモニアはエネルギーの産生を阻害する物質なので、アルギニンがアンモニアの無毒化をサポートすることで、エネルギー産生がスムーズになります。
■血流を改善する
アルギニンは体内では一酸化窒素NOという化合物に変化し、血管を広げたり、血流を促進させたりすることに役立ちます。この作用が動脈硬化や心筋梗塞の予防にも役立つのではないかと考えられています。
■運動のパフォーマンスを上げる
アルギニンをスポーツの前に摂取することで、一酸化窒素が生み出されて持久力が高まる、成長ホルモンが分泌されることで筋肉が強くなるといった効果が期待されています。
■美容効果
アルギニンには肌の保湿作用が報告されているため美肌作用も期待され、実際に乳液やクリーム、シャンプー&コンディショナーなどにも使用されています。さらにアルギニンはコラーゲンの合成にも関与していると考えられています。
■ダイエット効果
アルギニンが関与する成長ホルモンには脂肪燃焼作用があることから、アルギニンにもダイエット効果が期待されています。
■男性機能の向上
精力剤などにアルギニンが含まれていることから、アルギニンは男性機能の回復や強壮、EDなどにも良いと期待されています。
ただしEDに関する効果については効果が高い可能性があるという研究が存在していますが、断言のレベルには至っていません。
アルギニンがさまざまな効果効能を発揮する理由とそのメカニズムには3つの作用機序によるものだと考えられています。
成長ホルモンは抵抗力を高めたり、たんぱく質の合成を促進させたりするのに不可欠な物質です。
アルギニン摂取者の方が成長ホルモンの分泌が高くなるという報告もあり、アルギニンの効果効能はこの成長ホルモンの増加によって得られるものだと考えられています。
また、一酸化窒素は血管を拡張し、血流を改善するのに欠かせない物質です。血管や血流の健康状態が健康状態を左右するため、アルギニンの摂取により血管の状態が良好になることがアルギニンの効果効能につながると考えられています。
そしてアルギニンから生成される一酸化窒素は、免疫細胞であるマクロファージの活動を活性化させることも報告されており、これにより免疫力が強化されると考えられているのです。
アルギニンは成人にとっては必須アミノ酸ではなく、体内で生成することができる非必須アミノ酸です。
ただし疲労が蓄積しているとき、ストレスがかかっているとき、手術や病気の後など合成量が追いつかずに欠乏することも多いため、準必須アミノ酸という位置づけになっています。
そのため、疲労が取れない、ストレスフル、激しい運動や労働で体力や気力を消耗している、といった場合には、意識的にアルギニンを含む食品やアルギニンの健康食品を利用すると良いでしょう。
特に、スポーツをされている人や、加齢に伴い筋力の低下や免疫力の低下が気になる人は、加齢とともに減少する成長ホルモンの分泌量を維持するためにも有効です。
また成長期である10代の子どもにとって、成長ホルモンは重要で、心身の健やかな成長に不可欠です。子どものうちは体内でアルギニンが合成されません。
子どもにとっては必須アミノ酸であるため、毎日の食事から過不足なく補う必要があります。
乳幼児期は粉ミルクからも摂取できますし、お子さまの食事にはたんぱく質が不足しないような献立を意識してあげることが大切です。
アルギニンはアミノ酸の一種であるため、個別の摂取目安量は定められていません。
アルギニンの効果効能については多数のエビデンスが報告されています。
■成長ホルモン増加に関するエビデンス
まず、協和発酵バイオ株式会社の研究報告を紹介します。
健康な成人5名にアルギニンを140mg/kg/日摂取してもらい、プラセボ群と昼夜の成長ホルモンの量を比較したところ、夜間の成長ホルモン濃度がアルギニン投与群で優位に高値を示したことを報告しています。[※4]
■勃起不全に対する有効性の研究[※2]
50人のED患者を2つの群に分け、L-アルギニンを5g/日、6週間継続摂取してもらいました。
プラセボ群(偽薬群)と比較した結果、投与群の29人のうち9人に効果が見られたという報告があります。
ただし同じような試験をして効果がなかったという報告も存在していますし、ピクノジェノールとの併用で効果が見られたという報告もあります。
■その他の有効性に関する研究報告[※2]
手術後の回復の改善に、アルギニンをリボ核酸及びEPAと併用することで、術後の回復に役だつことが複数の研究により報告されています。
また最大3か月の連続摂取により膀胱炎の改善があると報告されています。
アルギニンは1886年にハウチワマメという植物の芽から分離されました。
1980年頃にアルギニンによって一酸化窒素NOが産生されることが解明され、ここからアルギニンが血管拡張作用によって心疾患、動脈硬化、頭痛などに効果があるのではないかと研究が盛んになりました。
1998年、NO(一酸化窒素)の作用の研究によりノーベル医学・生理学賞を受賞したイナグロ博士は、体内における一酸化窒素の重要性と、またそれをもたらすアルギニンとシトルリンについていかのように語っています。
「アルギニンとシトルリンを組み合わせて摂取することはとても重要なことだと思います。多くの人が2000年ごろからアルギニンを摂取するようになって、すでに良好な結果を出してきています。皆アルギニンを摂取し、その違いを実感しています。米国では、アルギニンだけを原料とする本当に沢山の製品がすでに販売されています。(中略)もしより多くのNOを作り出そうと思うならば、鍵となるのはアルギニンとシトルリンの組み合わせです。」[※5](プレワークアウト研究会 イナグロ博士インタビューより引用)
特にアメリカではアルギニンのサプリメントや健康食品が人気であるだけでなく、体内で一酸化窒素がどう役立つかについても理解されているようです。
アルギニンはアミノ酸の一種ですから、たんぱく質が多く含まれる食品であればアルギニンも当然多く含まれます。
たとえば大豆製品、肉類、魚介類などです。なかでも大豆製品にはアルギニンが豊富に含まれています。またうなぎ、ニンニク、マカなど栄養価が高いとされる食品にも多く含まれます。
アルギニンを効率よく摂取するには、アミノ酸の分解や合成に補酵素として働くビタミンB6を一緒に摂取することが望ましいです。
ちなみにマグロにはアルギニンとビタミンB6のいずれもがしっかり含まれているので、アルギニンを効率よく摂取できる理想の食べ物と言えます。
アルギニンと相性がよく、相乗効果を発揮する成分として知られるのがシトルリン、オルニチン、亜鉛、葉酸、カフェイン、ビタミンEなどです。
また先ほども説明しましたが、補酵素としてビタミンB群も一緒に摂取すると良いでしょう。
アルギニンの効果を求めて、食事から十分量を摂取しようとすると、どうしてもカロリーオーバーになりがちです。
その際、サプリメントでの摂取も選択肢のひとつとなりますが、疱疹(ヘルペス)ができている人や、統合失調症の人もアルギニンの摂取は望ましくない、という見解が一般的です。
これはアミノ酸の摂取量が治療そのものに関与する疾病だからです。
また上記のような疾病をお持ちでない人も、サプリメントでの摂取では過剰摂取になりやすい傾向があります。
アルギニンを過剰摂取した場合の副作用としては、下痢などの症状が報告されています。特に肝機能や腎機能が低下している人はアルギニンの大量摂取は非常に危険であるため、注意が必要です。
さらにアルギニンは降圧剤との併用は血圧が下がりすぎる可能性があるため、医師に相談してから摂取する必要があります。[※2]